形式:文庫
出版社:岩波書店
出版社:情報なし
その他、材木商の話や黒人社会において労働力を得る話、象が食料を食べてしまうことなど、興味深いアフリカの話題が語られる。最も興味深かったのは、黒人は決して怠惰ではないが、あまり働かないという話だ。要するに、彼らは食べるのに必要な金が手に入ると、それ以上働こうとしない。そこで白人たちは税金をとったり、酒やタバコや化粧品などを持ち込むことにより、金を必需品にして黒人を労働者にさせようとする。資本主義の成立に立ち会っているような話である。
また、アフリカにいて自分を正しく維持するためには、精神的に「真面目な本」を読むなど、教養が大切であるという話は含蓄が深い。アフリカの生活は「散文のよう」であるという言い回しはなるほどと思う。白人商人がベーメの『アウローラ』を読んでいるなど、アフリカだからこそ向き合える本もあるのだろう。
さすがに暗黒大陸と呼ばれた時代とは様相を変えていたとはいえ、赤道直下のアフリカでの医療活動は過酷を極めた。飢饉や赤痢の流行。物資の慢性的な欠乏(医療物資に限らず、物資がなかなか届かない)。習性の違う現地の黒人との軋轢。労働者を現地で雇うも、管理人がいないと働かない。ゲーテへの傾倒と深い理解や研究やキリスト教の精神。1953年ノーベル平和賞を受賞した。今では忘れられた存在なのか。吾輩が子供の頃はアインシュタイン並の英雄だったが。
「彼らの本質には、善なるものの観念は熟考してわかるものであるとのおぼろな予感がある。彼らはイエスの宗教の崇高な道徳的概念を知るや、それまで彼らのうちに沈黙していたあるものが、ただちに言語に現れ、それまで束縛されていたあるものが解放されるのである。」
「ここにはヨーロッパにある大部分の疾病が力をふるい、白人がもたらした多くのいとわしい疾患がいたるところでヨーロッパ以上の不幸を生んでいる。自然児もわれわれ同様痛みを感じるのだ。なぜならば、人間であるということは、苦痛という恐ろしい主人の力に服従していることなのである。」
どんな人間であれ、責任を負おうとせず、気分のままに働こうとする(131頁)のはよろしくない。アフリカの患者にとってのバナナは、象の襲来で駆逐される(137頁)。WWⅠで戦火の中で。厳しい現実。1914年のクリスマス。著者は、学問と芸術を棄て、原生林に飛び込み、悟ったことは、人間とは苦痛という恐ろしい主人の力に服従しているということ(165頁)。植民地帝国主義の意味は何か?
「自分が救われたように他人にも救いをもたらそうと助力しなければならない」(168頁)。
この機能をご利用になるには会員登録(無料)のうえ、ログインする必要があります。
会員登録すると読んだ本の管理や、感想・レビューの投稿などが行なえます
その他、材木商の話や黒人社会において労働力を得る話、象が食料を食べてしまうことなど、興味深いアフリカの話題が語られる。最も興味深かったのは、黒人は決して怠惰ではないが、あまり働かないという話だ。要するに、彼らは食べるのに必要な金が手に入ると、それ以上働こうとしない。そこで白人たちは税金をとったり、酒やタバコや化粧品などを持ち込むことにより、金を必需品にして黒人を労働者にさせようとする。資本主義の成立に立ち会っているような話である。
また、アフリカにいて自分を正しく維持するためには、精神的に「真面目な本」を読むなど、教養が大切であるという話は含蓄が深い。アフリカの生活は「散文のよう」であるという言い回しはなるほどと思う。白人商人がベーメの『アウローラ』を読んでいるなど、アフリカだからこそ向き合える本もあるのだろう。