『門』は崖下の小さな借家に住む夫婦の話である。名は宗助とお米、二人はランプの下で一日の出来事を淡々と語らい微笑み静かに暮らす。そんな日々の暮らしが綴られるが過去にのっぴきならない事があり、社会から離れていると分かる。読者は『それから』の続編と意識しはじめる。お米の過去、宗助の過去、そして子供のいない2人の夫婦生活、社会と断絶して生きるには共に2人が深く深く信頼し合うことだけが生きる糧となった。そう、ほのかな灯りの下で静かに呼吸を潜めて。でも、運命は悪戯者だ家主の弟の連れがお米のかつてのモトカレだったのだ。
この頃の漱石さんは、胃潰瘍と戦いながら執筆している。さらさらと筆を滑らせる漱石さんが見える、『門』は『それから』に比べ優しい感じが文章から伝わってくるな。うまく言えないけども、漱石さんは神経を病んで奥さんに無理をかけていたし奥さんはそれに耐えていた。そんな日々を想い混沌とした明治末期の欺瞞の文明を見るにつれ、静かに暮らしたいけども社会が許してくれないというような想いが伝わってくるような気がする。−−夏目文学をじっくり堪能できました。文春文庫さんどうもありがとう。
この機能をご利用になるには会員登録(無料)のうえ、ログインする必要があります。
会員登録すると読んだ本の管理や、感想・レビューの投稿などが行なえます