形式:文庫
出版社:新潮社
形式:Kindle版
「ジョン万次郎漂流記」土佐の漁民が嵐で無人島に漂着してアメリカの捕鯨船に救助され、彼の国の文化を学んだのちに日本に戻り、ペリー来訪に始まる開国の準備や日米交渉で活躍し、咸臨丸でまたアメリカに乗り込んでいく。難破して生き延びる者もいれば、力つきる者も、状況に流され安逸に流される者もいるが、万次郎はすごいバイタリティと柔軟性の持ち主だったと分かる。江戸時代の一平民が世に知られるようになったのは、こうして記録文学として作品化されたことによるらしい。
「二つの話」作者が疎開先で親しくなった二人の少年と、時間旅行で新井白石と豊臣秀吉に会いにいく。時間旅行の方法は、相対性理論をどうにかしたものらしい。現代人が過去に行ったところで、そうそう誰彼に会えるもんではなく、終着点の見えない混沌とした展開になってしまう。作者の誠実さを突き詰めていってユーモアに辿り着いたのかもしれない。
興味深い記述としては、「ヌウ・ギネア」の「人喰い人種」を見た(p190)という部分。ニューギニア島のFore族では、家族のメンバーが亡くなると、遺族が弔いの儀式としてカニバリズムが行われており、この結果として、クール―という致死性の神経病(蛋白質が本体とされるプリオンによる感染症)が起こったことは医学史上有名(現在、カニバリズムの習慣は廃止されたので、クール―もなくなった)。本書に登場する人種がFore族と関係があるかは不明であるが「人喰い」の習慣がニューギニア島にあったことは事実。
なお、私は高知県土佐清水市の「ジョン万次郎資料館」を訪れる機会があったが、本書のファンにはおススメ。同館で紹介されていた万次郎関連の書籍で、写真が豊富で簡潔に万次郎の生涯が把握できるものに、万次郎の子孫である中濱京が書いた「ジョン万次郎 日米両国の友好の原点」があった。こちらは写真・図が豊富であり、「資料館」を訪れることのできない人にとっては、小説を補足するものである。
「ジョン万次郎漂流記」は第6回直木賞受賞作
平家物語そのものを好きになったのは中学の古文で学んでからだが、下地は小学生の頃読んだ『さざなみ軍記』にあったと気づく。 落ち行く平家の公達の淡々とした日記風文章に優雅なものが儚く消えてゆく美しさを感じたものだった。今改めて読むと、出来事や人物の解像度が上がり、一層儚さを感じる。
以前、探偵ナイトスクープで、通じるかどうか検証してました。掘った芋いじるなと言うと、たいがい時計を見てくれてそうです!
ショースケさん、やっぱり!
<さざなみ軍記> 白黒ほぼ決定の敗走苦境。少年武将の精神の彷徨。余裕なのか戦況理解不足なのか、少女に淡い気持ちでふわふわ緩い。それが後半になると、直近の死の影に気づいて、自己と向き合い神経鋭敏。優秀な助っ人が傍にいて、自由気ままながら、ゲリラ的に攪乱巧妙。かなりの戦果で俄然注目。戦隊を抜けて戻って、再びの活躍。少年がそいつの精神の在り様をつぶさに観察し始めて面白度加速。歴史の流れと、逆らってもどうしようもない地点での静謐で確かなものの探り。自己の日記と英雄の軍記、鮮やかなシンクロに、息を吹き返す。
以前、この中に納められいる『二つの話』という作品だけ読んで感想を上げたことがある。消してしまったので、図々しくも再び書く。それは一見エッセー風に始まるが、そこで話をひとつ書きだす。井伏自身が主人公でタイムスリップして過去に行くというSFの先駆け的な設定も面白いし、話の中で話が始まる入子構造も面白い。しかし、話がカオス的になって破綻し、もう一度挑戦するが、2つ目の話もおかしな方向に行ってしまい、我に返った作家が「もう無理!書けない!」って宣言して終わるという、へんてこな話だった😳💕。
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