Nosce te ipsum.
―汝自身を知れ
そのことばの前に私は立ちすくむ。
いま「汝」と呼ばれた者、果たしてそんな者がほんとうにいるのだろうか。よし実在したところで、その「汝」と呼ばれた指示対象―さしあたりはこの「私」―はいったい一定の値で在りつづけるのだろうか。
あの高い空に流れ行く雲のような「私」は、たしかに変化を止められないように思われる。
私の読む書物たち―異物として、膨大な他者たちの魂の依り代として、古典的な外部記憶装置として其処に在るそれらは、いまの私に読み込まれることで、私に取り込まれ、「私」という新たな全体の部分となる。
ここにある記録は、その断片を写したのである。
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