noteに書いた『坂の上の雲』よ感想を切り貼りしてたら読みにくくなったかもしれない。こちらで一気に全文読めます。 https://note.com/namayagi/n/na9816adac72f?sub_rt=share_b
そして、前線で目の前の仕事に対応するしかない勤勉な人たちがバタバタと倒れていく。現場の人間は、「上層部は遠く離れた安全地帯から、他人事のように文句を言っている」と思うし、上層部の人間は「どうしてこうも成果が出ないのだ。あいつらは何をやっているんだ」と現場の人間の無能さやミスに責任転嫁するという不毛な軋轢。戦争がなくなって、時が流れても組織というものはどこまでも機能不全でうまくいかないものなのだなと思う。
この『坂の上の雲』を読んでいてしんどかったのは、今まで歴史小説を読んでいて感じなかったそういう生々しさもひしひしと感じたからなのかもしれない。 ロシアの側でも、皇帝のような最高責任者とそれを取り巻く集団の腐敗が描かれ、無謀な作戦を止めるものもおらず、みな自分の保身を考えて行動している人だけが残っていく感じが、組織あるあるだなと思ってみていた。 戦争ほど直結して人の生死に関わるわけではないけれど、集団における人間の本質というのは時代や状況が変わってもそうそう違うものではないのだということを感じたのだった。
読んでいてしんどいなと感じるところとして乃木希典や伊地知幸介への描写がある。飲み会で自分の知らない職場の上司への愚痴を延々聞かされているような気分になった。実際にそういう人物だったのか、物語の悪役的要素のためにやや脚色されたのかはわからないが、軍部の全員が人格者であるわけもなく、能力的に万能な人間ばかりではないことは間違いない。
主軸は三本柱のはずなのだが、その周りに伸びていく関わりをかき集めていくと、情報がいくつの筋にも広がり、日本にもロシアにもその視点は動いていく。(三人の中でも真之が主人公なのだとは思う。ドラマではそれをより強く感じた。)
社会の授業で習った時は、スポーツのハイライトを見る時のように、どこで戦ってどっちが勝った、活躍した人は○○みたいな感じでただ情報を受け取っていただけだった。だがこの小説では、三人の人物が松山という故郷から出発して、明治という時代を生きていくところから、視点が徐々に広がるように描写が進行していく。その時間の進み方は一回表から試合を見ていくような、そしてそれを1シーズン続けていくような壮大さがある。
戦争は国と国で行われるものなので当然ながら関わっている人の数が多く、何千何万という死者も出る。離れて見たらたくさんの粒が蠢いているような、それこそ遠い空の向こうで雲同士がぶつかり合って消えていくようなつかみきれない感覚になりそうなところを、三本の人物を柱にして地に足をつけ、そこから広がる糸をぐいぐい引っ張っていくような話なのだ。 小説の方が、時代背景や藩閥政治、個々人の素質や性格に左右されている戦況を、時系列や場所を行ったり来たりしながら微に入り細に入り描写していた。
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読んでいてしんどいなと感じるところとして乃木希典や伊地知幸介への描写がある。飲み会で自分の知らない職場の上司への愚痴を延々聞かされているような気分になった。実際にそういう人物だったのか、物語の悪役的要素のためにやや脚色されたのかはわからないが、軍部の全員が人格者であるわけもなく、能力的に万能な人間ばかりではないことは間違いない。