「よい薬物も悪い薬物もない、あるのはよい使い方と悪い使い方だけ。そして、悪い使い方をする人は、何か他の困りごとがあるのだ」と書かれている箇所を読み、私は大いに共感した。ものは常に存在しているだけであり、その善悪を判断しているのは人間であるという考えから観念論に傾倒している私、また自分が嫌いになり他者も嫌いになり、すべてがどうでもよくなる気分をしばしば持つ私がこの文章から受け取るものは大きい。私にとっての麻薬は本であり、昼下がりコーヒーを飲みながら読書する時間はハイになる時間と全く変わりがないのだと思う。

プルーストの書く自然、それはあきらかに彼の主観が構成した自然であるにもかかわらず、美しく瑞々しい。譬喩が譬喩を呼び、淀みながらも鋭く流れる軌跡は、まるで一流のフィギュアスケーターによる美しいステップを思い起こさせる。長い航海は始まったばかりだ。プルーストはどんな海を見せてくれるのか、船上にはどんな匂いが漂うのか、どんな音が聞こえるのか。感覚を研ぎ澄ませ、彼の小説を楽しみたいと思う。

コーランを他者として、絶対に理解できないことを前提に向き合う。表層的な意味だけでない、テクストの深層にある何かを掴まえようとする読み方で、あるいはその言葉が発せられたシチュエーション-つまり話し言葉としてのパロール-を考慮しながら、多元的に読む。そういう読み方を通して底のない意味の深みにはまっていくこと、それは意味が発散することであり理解を妨げさえするかもしれないが、私たちは混沌の中に置かれて初めて、ほんとうの意味を理解するのではないだろうか。

壊す人が大岩塊、あるいは黒く硬い土の塊を破壊してから始まる村=国家=小宇宙の歴史・神話を書き継ぐ者としての決意を固めた主人公・露己は、暴露された二重戸籍のからくりを真似るような名前を持つ妹・露巳に手紙を書く。大江健三郎の小説は独自の文体が独自の世界を創っているような小説であり、小説を読むことの本来の楽しさを思い出させる。

最初の体系化された写真技術であるダゲレオタイプが発表されてから185年、今や写真は完全な民主化が達成されており、写真を撮る側と撮られる側の境は消滅しつつある。写真の発明により絵画はその機能的側面を失ったが、またそれは芸術としての意味を位置付けることにもなった。同様にデジタル写真の普及に伴ってアナログ写真のエモさ？が注目されるようになっているのは興味深い現象である。写真史の最前線として現代を見つめ直すことは、写真の作り出すイメージに日々翻弄されがちな私たちの良薬となるに違いない。

「よい薬物も悪い薬物もない、あるのはよい使い方と悪い使い方だけ。そして、悪い使い方をする人は、何か他の困りごとがあるのだ」と書かれている箇所を読み、私は大いに共感した。ものは常に存在しているだけであり、その善悪を判断しているのは人間であるという考えから観念論に傾倒している私、また自分が嫌いになり他者も嫌いになり、すべてがどうでもよくなる気分をしばしば持つ私がこの文章から受け取るものは大きい。私にとっての麻薬は本であり、昼下がりコーヒーを飲みながら読書する時間はハイになる時間と全く変わりがないのだと思う。