「本当の自分を見つけましょう」という言葉は、自己啓発書等で散見されるが、私達は基本的に色々な人格を使い分けて他者と交流しており、本当の自分とは単一の要素に規定できるものではないという疑問を抱いたことはないだろうか。本書はそんな疑問に「分人」という概念を創造して人間関係に対する考え方を提示しており、人付き合いに関する息苦しさを払拭しようとしている点で良書だと思った。
また、本作は短編集なので時系列はバラバラだが、戯言シリーズを読んだ後であったため、全体像をより立体的に把握することができた。このように点と点が結びつくような形で全体像が徐々に明らかになる様は、まさに上遠野浩平のブギーポップシリーズから着想を得たのだろうと認識した。
また、トップVCの経営層へのインタビューでは、多くの人が新たなテクノロジーの普及といった社会の発展にも自社の儲けと同じくらい目を向けており、まさに「三方よし」という言葉が体現されていると思った。
情報過多の現代において「考える」という行動に疲弊感を募らせた経験がある人は少ないないのではないか。本書はそのような人々に対し、表面的に「考える」を論ずるのではなく、より構造的な視点で処方箋やそのヒントを提示している点で良書である。
特に恋愛に関する章で述べられた「自分が抱く【相手向けの分人】と、相手が抱く【自分向けの分人】のサイズが同程度でなければ、恋愛関係は中々上手くいかない」という言葉は、新奇性に富んでいる訳ではないが、恋愛が思うようにいかない背景を端的に言語化していると思った。
「本当の自分を見つけましょう」という言葉は、自己啓発書等で散見されるが、私達は基本的に色々な人格を使い分けて他者と交流しており、本当の自分とは単一の要素に規定できるものではないという疑問を抱いたことはないだろうか。本書はそんな疑問に「分人」という概念を創造して人間関係に対する考え方を提示しており、人付き合いに関する息苦しさを払拭しようとしている点で良書だと思った。
先に『クビツリハイスクール』を読んだ身としては、零崎一賊をいとも簡単に手玉にとる子荻の様子は特段珍しいものではないと感じたし、そんな子荻を戯言で翻弄した「いーちゃん」は絶対に敵にしたくない奴だと再認識した。また、そんな子荻を精神的に疲弊させた零崎双識の変態性は、阿良々木暦を彷彿とさせた。
MBAの取得が半ば陳腐になり、論理や理性だけでは解決できない問題が増加している現代において、自分が今までに育んだ感覚に基づいて行動することが重要だというのは、一理あると思った。また、「ある事象を【言語化・再現できる】は、天才ではないことの証明でもある」というのは、実際にそれを実現することもある種の天才だと見做せるのではないかとは思ったものの、理論的には誰にでも実現できる可能性があるという点では妥当な考えだと感じた。
激しい変化によって複雑怪奇な様相を呈しつつある時代では、言語化できずとも自らが今までの人生を通じて培ってきた感覚に依拠する重要性が高まっている。本書はそんな感覚を「美意識」と定義した上で多くの企業が着目する背景を分かりやすく論じ、人々にも行動を促している点で良書である。
【主な関心領域】
経済政策/金融論/社会保障/公共政策/ミステリ・警察小説
以前はReadHubというアプリで読んだ本の感想を投稿してました。その時に読んだ本の感想も時々投稿します。
【好きな経済学者】
権丈善一・小野善康・井手英策・神野直彦・飯田泰之・
宇沢弘文・ヴェブレン・ガルブレイス
【好きなエコノミスト】
河野龍太郎・森田長太郎・門間一夫・唐鎌大輔
【好きな小説家】
東川篤哉・内藤了・綾辻行人・誉田哲也・上遠野浩平・西尾維新
【好きな新書レーベル】
中公新書・岩波新書・光文社新書
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特に恋愛に関する章で述べられた「自分が抱く【相手向けの分人】と、相手が抱く【自分向けの分人】のサイズが同程度でなければ、恋愛関係は中々上手くいかない」という言葉は、新奇性に富んでいる訳ではないが、恋愛が思うようにいかない背景を端的に言語化していると思った。