気がついたことがひとつ。緑子の手記(日記?)には、家に生理用品がないと書かれていた。年齢こそ明らかになっていないが、巻子は閉経しているんだということが暗示されているんだ。最後に、賞味期限切れかけの生卵を頭で割って母娘喧嘩が始まり、そこでようやく緑子が言葉を発する。市販されている鶏卵は基本的に無精卵だ。緑子にとって、無精卵である鶏卵を割る行為に何かの意図があるのかも知れない。ただ、鶏卵好きな人間としてはどうしても言っておきたい――卵の賞味期限はあくまでも生食の期限だから、茹で卵や卵焼きにして食べて欲しいな。
「あなたたちの恋愛は瀕死」は三人称視点で書かれていて、個人を表現するために一人称視点で書かれることが多い純文学とは異なる気がする。また、タイトルにある「あななたち」は誰が誰に向かって言っているのかわからない。登場人物は全員、名前がない。女は完璧な外見、見た目を繕った女性が、ティッシュを配っているバイトの男性に声を掛けるのだが、男性は驚いて女性を殴ってしまう。鞄の中身が散らばり、化粧した顔を擦りむいてしまうだけ。見た目を飾っただけの人は終ってるって言いたかったのかな。外見じゃなくて内面磨きが大切って話かな。
【ネタバレ】全体の柱になっているのは、榊家における「人間標本を作りたい」と考えてしまう呪いだ。この呪いのせいで、榊史朗が書いた「人間標本」と、榊至が書いた「人間標本」に読者は真実味を感じてしまう。だが、最後には一之瀬留美が考え、一之瀬杏奈が実行し、それを榊至が手助けしていたことがわかる。結果的に榊至は共犯(死体損壊)であったわけだが、そのことを知ったのは史朗が至を人間標本にしたあと、裁判も終わったあとである。解体された家から出た絵の解析結果から至の真意がわかるせいで、更に悲しく、やるせない気分させられる。
普通である、ということについて考えさせられる小説であることは確かだけれど、普通になるために好きでもない人と平均的な年齢までに童貞や処女を卒業し、何になりたいかも決まらないまま就職して、添い遂げられる相手かどうかも考えずに結婚する……それが本当に「普通」なのかと感じてしまう。結局、価値観の違いのせいで、普通ってことも人それぞれ違うので、考えたところで結果的に「普通ってなんやねん」って話になる。個人的に「普通」という言葉は、各駅停車の列車を指すとき以外は使わないようにしているんだけど、やはり怖い言葉だと思う。
おじいちゃんです
ラノベと漫画はKindle
それ以外の小説は単行本や文庫本
感想では「おもしろい」という言葉は使わず、「どこで、何を、どのように感じたのか」を大切にしたいと思っています。
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普通である、ということについて考えさせられる小説であることは確かだけれど、普通になるために好きでもない人と平均的な年齢までに童貞や処女を卒業し、何になりたいかも決まらないまま就職して、添い遂げられる相手かどうかも考えずに結婚する……それが本当に「普通」なのかと感じてしまう。結局、価値観の違いのせいで、普通ってことも人それぞれ違うので、考えたところで結果的に「普通ってなんやねん」って話になる。個人的に「普通」という言葉は、各駅停車の列車を指すとき以外は使わないようにしているんだけど、やはり怖い言葉だと思う。