物事が自分の思うように進まない場合に衝動的な言動が多く、幼稚な人格を感じざるを得ない。平時において自身が善良でないことや狂気じみている点への自覚は十分に持ちながら、いざとなると感情の制御が付かず大言壮語を吐く(死ぬ覚悟もなしに決闘を示唆するなど)という点で、虚言癖のような一面もある。一人称「俺」による描写は「信頼できない語り手」の側面が強く、内面の欠陥をまだ秘匿しているように映る。旧知であるズウェルコフたち(学生時の同級生)やアポロン(下男)との関係が最悪な形で描写されるのも、ほぼ主人公のせいではないか。
本作のハイライトは、アントニー・クレオパトラ対シーザー(ジュリアス・シーザーではなく、後のアウグストゥス)によるアクティウム海戦だと考えた。クレオパトラは事前に出陣しないよう侍女たちから諌められるも、無視して最前線で指揮を執る。アントニー・クレオパトラ連合がシーザーを負かしつつあったが、クレオパトラは戦場への恐怖から船ごと戦線離脱。アントニーも(軍人としてあるまじき姿勢だが)それを追い撤退することで敗北。クレオパトラの覚悟のなさ、アントニーの軍人としての職務を放棄する姿は本作において何よりも醜悪に映った。
アントニーの「腕っぷしは随一で、陸戦での戦略や戦術にも優れた将軍。ただし色恋が原因で破滅する」というキャラクターは、一見すると歴史物語における豪傑のステレオタイプではあるが、クレオパトラとの辟易させられる絡みや彼女への甘やかし、逆に古参兵による支持の厚さや部下への情など細部まで描かれており、容易に形容できない人物像になっている。クレオパトラについても、女性リーダーとしての処世術や生存戦略は一貫してうかがえる。ただし、それらは色仕掛けの傾向が強く、何人ものローマの権力者に愛人としておもねる姿は下劣にも映る。
福岡出身。文系。防衛大学校に12ヶ月所属して中退。大阪大学卒。中小企業→インド勤務→大手のIT子会社→大手IT。純文学と海外のビジネス書が好き。海外25カ国行った。
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物事が自分の思うように進まない場合に衝動的な言動が多く、幼稚な人格を感じざるを得ない。平時において自身が善良でないことや狂気じみている点への自覚は十分に持ちながら、いざとなると感情の制御が付かず大言壮語を吐く(死ぬ覚悟もなしに決闘を示唆するなど)という点で、虚言癖のような一面もある。一人称「俺」による描写は「信頼できない語り手」の側面が強く、内面の欠陥をまだ秘匿しているように映る。旧知であるズウェルコフたち(学生時の同級生)やアポロン(下男)との関係が最悪な形で描写されるのも、ほぼ主人公のせいではないか。