人の中にある悪意がこわいものということか。どれもあまり読後感がよくないが、思春期の不安定な心を表した「ブルー・インク」が印象に残った。嫉妬から止めようもなく人を傷つけてしまう課程がよくわかり、つらい「娘について」がいちばん不快かもしれない。コロナのあの騒ぎの影響がなくても人間の心理ってこんなものだろう。

１３歳の時、育ててくれた母親から生みの親の元へ戻され、それまでとはあまりにも違う環境へ放り出された少女の困惑と戸惑いと怒りの心情が細やかに語られる。戻された理由もはっきり分からないし、新しい家族は自分を歓迎するよりはあからさまにのけ者にしようとするし、学校では冷ややかに扱われ、元の家に戻りたいという気持ちが切々と伝わってくる。本当のきょうだいの中で妹だけが素直に寄り添ってきてくれる。この妹の存在が唯一の救いだった。育ててくれた母親の新しい家族と食事する場面の緊迫する描写がすごいと思った。続編が読みたい。

失った愛の物語。取り戻したくて、手が届かなくて、忘れたくなくて、それでも日常は続いていき、いつの間にか時間がたち、あれほど切なかった思いが時折の痛みに変わっていく。どの短編にも、心当たりがあるような、昔の思い出のような、いまも続く悲しみのような、さすがにと思わされる。最後の「十三月怪談」はずんと胸に残る。

洋書ではなく翻訳で読んだが検索しても出てこないのでここで登録します。難病で余命の長くない妻のために遺体を凍結して将来、医療が進んだ時に解凍して新たに生きなおすという方法を選んだ男性の息子が語るという形式で進む。わかったとは言いにくいがところどころ美しい表現があるのがいい。いつの時代も争いがあり、犠牲になるのは弱い者ばかりというのは変わらないのだというのが作者の主張だろうか。

人の中にある悪意がこわいものということか。どれもあまり読後感がよくないが、思春期の不安定な心を表した「ブルー・インク」が印象に残った。嫉妬から止めようもなく人を傷つけてしまう課程がよくわかり、つらい「娘について」がいちばん不快かもしれない。コロナのあの騒ぎの影響がなくても人間の心理ってこんなものだろう。

この人の本は終盤にかかるとあらすじだけを書いているような大雑把な記述になるところがある。とにかく殺人の連続でそれも気分の悪くなるような描写ばかりで、なんとかこの人は死なないでほしいと思える人が助かっただけでよしとする。細かいことを言えば、殺人の動機も、どうかと思うが。最後にひどく気になる終わり方をするのは次の本を買わせるためかしら。

のっけから娼婦をいたぶるいやな男性が現れ、不愉快だなあと思っていたら凄惨に殺される。それがスエーデンの外務大臣だと判明。ここらへんたたみかけるみたいで引き込まれる。殺人が大物政治家に及びそうだということで、公安警察がヨーナを使おうということになり、刑務所から仮に出所させられる。主筋のあいまにレストランのシェフの話が挟まれ、これがどういう関係があるのか分からないままけっこう面白い。やがて派手な殺人事件が起こり、連続犯の線が強くなりヨーナのカンがさえる展開となるが、大きな間違いもあり下巻へ。

本より著者の経歴に興味を引かれて読み始めたが、どんどん引き込まれていった。言葉の選び方、語りのうまさ、流れのたくみさ、すべての面ですばらしい。精子提供を受けて子どもを産むという方法にはもちろん抵抗を感じるが、子どもを持ちたいという切ない思いにも共感はできるし、そうやって生まれてきた子どもたちが父親が誰か分からないまま生きていく焦燥感もよく分かる。少女期に虐待を受けたつらい話もでてくるがすべての登場人物にくっきりとした個性と魅力があり読み終えるのが惜しいくらいだった。良い作品に出会えた。