アンナが息子と再会する場面が白眉。泣けます。それにしても、アンナはじつは小説的にはデコイで、本当の主人公はリョーヴィンなんじゃないかという気がしています。社会的、政治的な要素がおおいに盛り込まれているのも興味深いです。ちょっと、印象として『失われた時を求めて』みたいなところがあります。それにしてもトルストイは、険悪になったカップルを描くのがうまい！

ほぼ四半世紀ぶりに読みました。めちゃくちゃ面白かったです。四半世紀前の自分のほうが主人公にずっと近い歳なのに、今のほうがよくわかるし共感できました。井上正蔵の達意の翻訳で、全編、美しく切ない言葉に満ち、イメージが溢れています。終盤、ウェルテルが現実に対する自分の夢（妄想）の勝利を叫ぶ場面がありますが、それを書くことにより現実の勝利を示してしまうのが小説なのだなあと、そんなことを感じさせる小説でした。ゲーテって、好きじゃないところも多いけど、やっぱりすごいな、こんなにすぐれた小説はそうないなと思います！

ちょっとクセは強めですが、わかりやすく面白い本でした。知らなかったことがたくさんあり、スリリングでした。

中上健次の最良の作品ではまったくない。けれども、かけがえのない愛しい作品です。最初は露悪的な性の描写にうんざりしますが、トレーラーの影がチラつき、イーブの姿にあの若者の姿が重なるようになってくると、そのうんざり自体がこの作品のテーマと直結しているのだとわかります。僕が一番「好き」な中上作品『日輪の翼』の続編。ツヨシ！

めちゃくちゃ面白かったです。大江の、女性の描き方の悪いところも全開だった気がしますが、きわめてシンプルに、読み応えのある小説になっていました。宗教が出てくるところは、『燃えあがる緑の木』を先取りしていて、『燃えあがる緑の木』よりもいいんしゃないかなと思います。あと、この小説も、演劇と映画が重要モチーフとして出てきます。大江にとっての演劇とは、過去を呼び出して意味づける営み。では映画は？

これも面白い本でした。シオニズムの重要な部分はロシアのユダヤ人たちによって育まれ、しかも、ロシアでのポグロムを経て思想的に展開したという話。

読みやすく、非常に勉強になる本でした。ジャボディンスキーの思想の紹介部分では、「ジャボディンスキー、やべー奴だな」と思っていましたが、そのあとの連中が新しく登場するたびにもっとやばい奴になり、ジャボディンスキーの懐の深さを評価せざるをえない、という展開でした。けっこう暗澹たる気分になります。

富岡多恵子による室生犀星の評伝。面白いけれど、よくわからないところも多々あります。けっこう難しいことをいっているんじゃないでしょうか？

アンナの破局に至る流れは圧巻でしたが、やはりリョーヴィンの小説だったという印象。小説というものがもつ、人間の認識の変化を表現する力を、極限まで利用した作品ではないでしょうか。リョーヴィンに認識が訪れる場面には、『失われた時を求めて』最終巻のような感動がありました。

アンナが息子と再会する場面が白眉。泣けます。それにしても、アンナはじつは小説的にはデコイで、本当の主人公はリョーヴィンなんじゃないかという気がしています。社会的、政治的な要素がおおいに盛り込まれているのも興味深いです。ちょっと、印象として『失われた時を求めて』みたいなところがあります。それにしてもトルストイは、険悪になったカップルを描くのがうまい！