北海道日高の小さな生産牧場の繁殖牝馬ドラセナが生んだ初の牡馬シルバーファーンがクラッシク3戦に挑む競馬物語。馬術に優れるも馬を動物して可愛がりすぎるため牧場を転々とするアヤとファーンの入厩した二本松厩舎の女性調教助手の鉄子との対立と成長も描きつつクラシックへの挑戦が始まります。生産牧場と厩舎の実情とホースマンたちの夢そして実際のレースを緊迫感を堪能できる秀作です。

１９４５年陥落のせまるベルリン、空爆と貧困そしてナチスの厳しい弾圧に耐え７０歳となったルディとマリー夫婦は長男ヘレの娘エンネと共に暮らしています。３男のハインツは逃亡兵となりベルリンに潜伏し、長男ヘレは収容所に入れられ１２年が経過しています。ヒトラーの死とドイツの降伏、新たな支配者ロシアの横暴そしてやっと訪れる自由とヘレの帰還、少女エンネの目を通して描かれる戦争の愚かさと人としての尊厳の大切さ、激動のベルリン１９４５です。

自然の残る丘陵地帯に暮らす作家の父、母、長女、長男、次男の5人家族。二人の兄弟の学校、遊びの体験談を父の前で再現させそれを面白く書き留めていきます。やがて長女の結婚が決まり、残り少なくなった５人の時間を惜しむように家族は絵合せ遊びに興じます。永遠の時間の中の短くも心通わせ合う家族の一瞬を切り取った物語、癒される読書です。

下り新幹線の富士山の見える座席を予約したこと、有名な和菓子屋が混雑していて代わりにマクドナルドに入ったこと、国立西洋美術館でドガの自画像に再会したこと長い人生の中のささいな出来事がその後の大きな分岐点になる不思議さを見事に描き出す短編集です。主人公の女性が新幹線での誘拐を未然に防いだことが旅行中の相手の男性の本当の善意を知ることなく別れた切っ掛けになる「富士山」が印象に残ります。作者の短篇集も素晴らしいです。

人間の善意を信じ、不条理な死と向き合い、東大紛争のため大学入試を諦めた薫君がゴールデンウィ－クの最中、兄の友人山中さんの結婚式に出席する1日が描かれます。東大医学部の紛争に関わるも大病院の娘と結婚するという変遷、それを諦念の感で見守る兄の友人たち、腹の探り合いのような異様な結婚式に憤る薫君と花嫁の妹とその友達は日比谷高校、山王神社、ヒルトンホテル、ニュートーキョーと都心を巡り語り合います。青春が終わることの不安と切なさを描く薫君シリーズの３作目、虚無に立ち向かう薫君が健気なのです。

兵士と女豹の愛と別れが美しい「沙漠の情熱」、若い愛人の突然の死を嘆く夫人「ことづけ」、断頭台に散ったルイ１６世を秘密裏に弔う「恐怖時代の一挿話」、二人の息子を残し亡くなる夫人の想いが切ない「ざくろ屋敷」、スペイン王家の娘の最後の決断「エル・ベルデゥゴ」、そして若きニコラ・プーサンを魅了する老画家の芸術論と絶望「知られざる傑作」の６編がのるバルザックの短篇集です。

帝塚山で暮らした幼少期、大阪外国語大学から九州大学で学び作家を志し、結婚後東京に出暮らした石神井公園、作家として成功し終の棲家生田への引っ越しまでが描かれる作家の自伝です。父母、兄弟、恩師、そして作家仲間と自作品、丁寧に描かれる文章は懐かしいアルバムを見るようです。

１９１８年１１月キール軍港での水平の反乱から始まるドイツ革命、皇帝は追放され第一次大戦が終わります。その後に起こる政権争いで再びベルリンに内戦が勃発します。戦争により片腕を亡くした父、３人の子供を働きながら育てる母、ゲープハルト一家は貧困に苦しみながら自由のためスパルタクス団の武装蜂起に加わります。一家の長男ヘレ少年の目を通して激動の１９１９年ベルリンが語られます。次男のハンスはまだ生まれたばかりですがベルリン１９３３では主人公となるのです。

北海道日高の小さな生産牧場の繁殖牝馬ドラセナが生んだ初の牡馬シルバーファーンがクラッシク3戦に挑む競馬物語。馬術に優れるも馬を動物して可愛がりすぎるため牧場を転々とするアヤとファーンの入厩した二本松厩舎の女性調教助手の鉄子との対立と成長も描きつつクラシックへの挑戦が始まります。生産牧場と厩舎の実情とホースマンたちの夢そして実際のレースを緊迫感を堪能できる秀作です。

ミラノで暮らす少年は北イタリアの山岳地帯のグラーナ村で夏を過ごしています。そこで牛番の少年ブルーノと出会い友人となります。二人は意気投合し美しい自然の中で遊び、少年の父と3人で氷河の残るアルプスの山々に登ります。やがて青年となり別れた二人は３０歳となり再会し父の残した土地に共同で家づくりを始めます。死んだ父との青年になってからの確執、大人となったブルーノとの友情の復活、そして山でしか生きることの出来なかったブルーノとの突然の別れ。人生の悲哀とそれを呑み込み存在する美しい自然、切ない物語に感動です。

大学時代同じバンドを組んでいた千鶴と響貴、男は恋愛感情を抱くもその友情を壊したくなく告白することがない、そして女はその気持ちをしるも恋心はなく今の関係を続けて３０歳となり別の男性と結婚することに。響貴に告白させ自分を諦めさせる計画は自己本位で造り物に見えて残念ですが、他の友人たちの思いやり、そして響貴の純真に救われるのです。