いわゆる私小説的な作品の作者が、自分とその周辺の人々を赤裸々に描き出すという偽闘争的な態度で、結局は自身にこもり心酔しているように見えるのに対し、本作の作者は自己とうまく距離をとることで自己を超えて世界を探求的に描くことができているように思った。
さらに本巻では著者景戒自身が見た夢も語られるが、夢幻性よりも仏教的な世界観に基づいた現実の一部として夢もまた重んじられている風である。この、奇異であることと世界はこうなっているのだと説く規範性が景戒の中で絶妙に結びついていて、衒いのない迫真性が醸し出されているのだろう。奇妙さや辻褄の合わなさは本当はリアルなのだから。
不気味で絵になる話だ。きちんと描かれているが達者ではない絵が醸し出すデフォルメやデッサンの狂いに似た歪みが、理屈を超えた話にさらに捻った形を与えている。百物語らしく「デカメロン」や「カンタベリー物語」のように枠物語の形式を取っており、枠外では話数が進むにつれ枠内以上に邪悪な雰囲気が濃くなりつつある。枠の内外の二重の楽しみが味わえる本作は、「僕が死ぬだけ」ては済まないのではないかと期待させる。
趣味で評論や小説を書いたり別名で漫画を描いたりしています。
http://kounotori0.blog.shinobi.jp/
http://countdown00.hatenablog.com/
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いわゆる私小説的な作品の作者が、自分とその周辺の人々を赤裸々に描き出すという偽闘争的な態度で、結局は自身にこもり心酔しているように見えるのに対し、本作の作者は自己とうまく距離をとることで自己を超えて世界を探求的に描くことができているように思った。