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るな
新書にしては分厚いのは、オーストリアを構成する9つの州ごとに一章を割いて、各々の歴史的背景や地理、特色を解説しているから。執筆に14年の歳月を要した力作であり、自在で格調ある筆致も魅力だ。ところが、筆者は2023年に60歳程で亡くなっていることを知り、絶句。研究熱心な逸材の早逝が惜しまれる。宗教戦争、他民族の侵攻、民族紛争、覇権をめぐる対立‥地続きのヨーロッパでは絶え間なく戦争が引き起こされ版図が塗り替えられ、人々に苦難を強いた。その激動の歴史的展開に胸が塞がれる。オーストリアの真の姿に迫った好著。
物語 オーストリアの歴史-中欧「いにしえの大国」の千年 (中公新書 2546)
山之内 克子
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2025/03/27
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古めかしい訳文は時代感覚を伝えて趣きがあるのだけれど、流石に読みにくかった。スコットの文章は悪文らしいので、中野好夫さんは良い訳業をされている。直接的な王弟ジョンのリチャード王追い落としの奸計は稀薄で、もっぱらジョンの臣下達の個人的な欲望が巻き起こす物語だ。信仰、恋、復讐、御家再興、登場人物それぞれが信念に突き動かされる様を活劇も交えて活写する。中世においてもユダヤ人への差別意識が甚だしかったことも分かる。展開が散漫な印象もあり、かつては名作とされたものの現代ではあまり顧みられなくなった作品の一つだろう。
アイヴァンホー〈下〉 (岩波文庫 32-219-2)
ウォルター スコット
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2025/03/18
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高校時代に「ケニルワースの城」を読み、虚実入り混じる歴史小説の重厚な読み応えが心に残った。本作は、同じスコットの代表作。中野好夫の古色蒼然とした訳が相応しい、中世を舞台にした物語。前半を読む限りでは、アイヴァンホーの出番はごく僅か。サクソン人としての誇りをモットーとし、征服者であるノルマン人に複雑な感情を抱いているアイヴァンホーの父セドリックの方が、むしろ語るに足る役割を与えられている。後半は、いよいよ囚われ人の救出劇が始まりそうだ。「世界文学全集3」(河出書房)所収。1966年刊行。
アイヴァンホー 上 (岩波文庫 赤 219-1)
ウォルター スコット
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2025/03/02
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冒険小説の古典的名作なのだそうである。発表は1965年。主人公は元レジスタンスの戦闘員。ある実業家を護衛してリヒテンシュタインまで送り届ける命を帯び、命がけの逃亡劇が展開される。正直なところ、プロットがよく分からなかった。マガンハルトの持ち株をめぐる亡命の必然性も、突然現れる将軍とケインの接触の意味合いも。ただ、追う者も追われる者も協力者も、かつてレジスタンスに身を投じた人物であるという設定が、作品にいいしれぬ陰影を与えている。戦争下の塹壕を舞台にした攻防戦も戦争の傷痕を痛感させる。
深夜プラス1 (ハヤカワ・ミステリ文庫 18-1)
ギャビン ライアル
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2025/02/11
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雑草について様々な角度から解説したもの。中高校生を意識して分かりやすく、人生訓も交えて語られており、学ぶことが多かった。「雑草は弱い植物である」「競争に弱い雑草の基本戦略は戦わないこと」など、意表を突く指摘に戸惑いつつ雑草の真の姿に迫っていける。種子を作って子孫を増やす植物の戦略の数々は驚嘆に値する。しかも同類で出芽のタイミングをずらす「不斉一発生」によって生き残りを可能にする周到さも秘めている。我が子の自由研究で雑草の採集に躍起になった遠い夏の日を思い出しながら、雑草達の切実な生存欲に思い至った。
雑草はなぜそこに生えているのか (ちくまプリマー新書)
稲垣 栄洋
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2025/01/29
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筑摩書房「現代日本文学31」から8つの中・短編を読んだので、収録作品が一部異なっている。いずれも、おそらく作者の実体験が色濃く反映された作品なのだろう。表題作の「海辺の光景」は、終戦間もない虚無感と、正気を失くした母の死を見届ける息子のやり切れなさが相まって暗鬱としている。とはいえ、元気だった頃の母の姿や当時の家庭生活も思い出され、主人公は母の人生を断片的に辿ってみる。肉親の死に向き合う宿命に粛然とさせられる。8篇とも真っ当な道から外れた人間の屈折した心情を、戦中派の身を通して吐露しているかのようだ。
海辺の光景 (新潮文庫)
安岡 章太郎
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2025/01/22
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ナチス親衛隊員アイヒマンを中心に、ナチスによるユダヤ人大量殺害の実態を解説したもの。知れば知るほど、残虐非道な迫害行為が国策として遂行されていた事実に言葉を失う。にもかかわらず、戦後直後はドイツ国内の行政機構を維持する目的や、米国に有益な情報を提供する裏取引によって、ナチ戦犯への追及が低調だったという。「おわりに」を読むと、アイヒマンと日本人の共通性から見える、現代に繋がる日本人の問題点を筆者は問いたかったことが理解できた。でも、その肝心な部分の考察が手薄になってしまったように思う。
アイヒマンと日本人 (祥伝社新書 684)
山崎 雅弘
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2025/01/15
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藤原道長の生涯と内なる思惑を、本人、藤原実資、藤原行成の日記から読み解いたもの。大河ドラマ「光る君へ」では道長の行動からその心中を想像しなければならず、彼が目指したものも人物像も見えにくかった。本書では明確に娘を天皇に嫁がせ外戚となって地位を盤石にし、権勢をふるう野心家として説明されている。実資の日記に頻繁に記される歯に衣着せぬ道長批判と皮肉が頗る面白い。また一条天皇、三条天皇と道長との駆け引きの攻防も読みどころだ。平安期は怨霊と焼亡に脅かされた時代だということも分かり、時代背景への理解が深まった。
増補版 藤原道長の権力と欲望 紫式部の時代 (文春新書)
倉本 一宏
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2025/01/10
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新形式のハイジャックを描くサスペンス。刊行は1975年。5分の2程も読み進んでやっと主人公の行動の目的が明らかになる。この長い助走部分には、いささか我慢を強いられる。でも、ここから面白さは一気に加速。守備良く事が運ぶばかりではなく、犯人が思わぬピンチに見舞われるスリルも巧みに織り込まれ、最後の1ページまで何が起こるか分からないハラハラ状態が持続する。ベトナム戦時下の軍人の厭戦気分や政治的駆け引きも、当時の米国の姿を伝えている。映画化を断念させたスケールの大きさも特筆ものだし、読み応え十分な傑作。
シャド-81 (ハヤカワ文庫 NV ネ 4-1)
ルシアン ネイハム
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2024/12/28
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東日本大震災によって引き起こされた福島第一原発事故の被害を食い止めるために苦闘する現場を再現したドキュメント。吉田所長や当直長など、当事者が背負う苦悩の深さが胸に迫る。不眠不休、血尿まで出る極限状況の中で自分の努めを果たそうとした関係者の努力が日本を最悪の事態から救ったともいえる。何より彼らの語る言葉に重みがある。そこには経験者のみが抱く感情や気付きがあるのだ。作業に従事した人達は、その後被爆の影響はなかっただろうか。この事故を教訓として、あらゆる危機の可能性を想定したより安全性の高い対策を講じてほしい。
死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発 (角川文庫)
門田 隆将
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2024/12/22
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プロフィール
登録日
2014/04/28(3989日経過)
記録初日
2014/05/03(3984日経過)
読んだ本
448冊(1日平均0.11冊)
読んだページ
146707ページ(1日平均36ページ)
感想・レビュー
426件(投稿率95.1%)
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