「教養」を身につけるのに歴史小説も有効な手段の一つと訴えるとともに、歴史小説自体の歴史、担うべき役割、書く上での制約や逆に許容されること、市場規模の推移と書き手や売り手の苦労、自身の歴史小説との出会いやその後の読書体験、おすすめ作家＆作品等について存分に語っている。言動に共感する部分の多い作家なだけに安易なタイトルには正直ガッカリしたが、所謂「教養本」的なページが一定割合を占めるもののそれ以外の内容は十分にユニークであり、彼がこのタイトルを受け入れた理由も何となく推察（＆納得）できたので十二分に満足。

米政権内の対中戦略担当者が、覇権奪取に向けた中国の長期的な戦略を解説。大国は必ず覇権を求める宿命にあること（求めるか否かではなくいつ求めるか）を長い歴史から看破し、政権内外から聞こえる「中国は（アジアは別として）覇権を狙っていない」説に警鐘を鳴らしている。同国が自身の成長と米国の影響力低下を冷静に見極め段階に応じて適切に戦略転換を図ってきたこと（＆対する米国は常に後手に回ってきたこと）、それらは過去の大国が辿ってきた道と多くの部分で重なっていることを分かりやすく説明している。最終章での米国への提言も◎。

「教養」を身につけるのに歴史小説も有効な手段の一つと訴えるとともに、歴史小説自体の歴史、担うべき役割、書く上での制約や逆に許容されること、市場規模の推移と書き手や売り手の苦労、自身の歴史小説との出会いやその後の読書体験、おすすめ作家＆作品等について存分に語っている。言動に共感する部分の多い作家なだけに安易なタイトルには正直ガッカリしたが、所謂「教養本」的なページが一定割合を占めるもののそれ以外の内容は十分にユニークであり、彼がこのタイトルを受け入れた理由も何となく推察（＆納得）できたので十二分に満足。

英国人でありながら訳あってナチス支配下のドイツでスパイとなり、活動中に英国の諜報機関に捕まると今度は英側のスパイとなってその勝利に大きく貢献した人物の話。敵国人や所謂二重スパイをどこまで信用できるかという葛藤の中で、使う側も使われる側も苦悩しながらギリギリの選択を迫られる緊迫感がたまらない。特に英国においては、彼が独の上官と固い絆で結ばれていることも恋人や人質同然の友人を残してきていることも知りながら、彼を再度ドイツに送り込む決断をするが…エリートでも秀才でもなくお尋ね者の強盗だったという過去も一興。

それを読んだ者は誰も最後まで辿り着けない、あるいは結末を覚えていないという幻の小説「熱帯」。ごく有数のそれを手にすることができた者たちはいつしか定期的な会合を持つようになり、その謎に迫ろうとするが…前半は作中作を含めた複雑な構成にぐいぐい引き込まれていったが、中盤からはその度が過ぎて逆につまらなくなっていき、途中で読むのをやめてしまった。千一夜物語が重要なモチーフになっている他、興味を惹く作品が文中で多数紹介されておりそこには感謝。

小説家奥田英朗の自伝的連作短編。名古屋（実際は岐阜）から上京→浪人→大学中退を経て小さな広告代理店→独立という本人の経歴を微妙になぞったような物語を、敢えて時系列に並べずに展開している。１本目の中でジョン射殺のニュースが流れる等作者の大好きな洋楽ネタが盛り沢山だが（ヨーコが撃たれればよかったのになんてひどい言い草も&別著「田舎でロックンロール」との併読をお薦め）、江川の初登板やらプレリュードやらダブルデッキやら洋楽以外の昭和ネタも豊富に盛り込まれている。バブリーでブラックでベタな時代感を楽しみながら読了。

ジャニー喜多川による性加害について、過去に暴露本や一部雑誌に書かれてきた内容、それらが大手マスコミに取上げられぬよう＆問題が大きくならぬよう事務所がとってきた対応をまとめたもの。前者については、事務所創設時から切れ目なく続く（１号タレントであるジャニーズ→フォーリーブス→GH…）性被害と金銭的搾取について多くの情報が（本人発が殆どとは言え）世に出ていたことがわかる。後者については、鞭と飴を上手に使い分けていたことを具体的な手法とともに解説しているが、欲を言えばマスコミ側からの証言や証拠をもっと見たかった。