詐欺を主題にした3編の短編集。冒頭『2020年のロマンス詐欺』は岩手から上京したタイミングでコロナ禍になり、大学生活が始まらない孤独な中、オンライン詐欺加担に巻き込まれる若者の話。彼の母親目線で読み、いてもたってもいられない気持ちにさせられた。その後の主犯の顛末など長編で読みたかった。『五年目の受験詐欺』は次男の受験合格のため私塾経営者に高額手数料を払う母親の話。受験前に平常心を失う母親の気持ちがよくわかる。家族に心配をかけないために何とかお金を稼ごうとしたり、払ったりする普通の人の物語。絶妙に刺さった。

度々芥川賞候補とされており、お名前だけ存じ上げていたが初読みだった乗代さん。栃木県に住まう歴史研究部の高校生 浮田が歴史に詳しい関西弁の男と皆川城址で出会う冒頭。浮田の知的好奇心をほど良くくすぐる男の知識と話術にこちらまでぐいぐい引き込まれる。非公式の古文書『皆のあらばしり』の所在を巡って、外堀を埋めるべく調査を進めて情報交換する2人。大学ゼミの師弟関係とは違う上下関係のないフラットな語り合いが心地よい。浮田の進路に間違いなく影響を与えた男はせどりだったのか？無駄のない文体と展開、他の作品も読みたい。

詐欺を主題にした3編の短編集。冒頭『2020年のロマンス詐欺』は岩手から上京したタイミングでコロナ禍になり、大学生活が始まらない孤独な中、オンライン詐欺加担に巻き込まれる若者の話。彼の母親目線で読み、いてもたってもいられない気持ちにさせられた。その後の主犯の顛末など長編で読みたかった。『五年目の受験詐欺』は次男の受験合格のため私塾経営者に高額手数料を払う母親の話。受験前に平常心を失う母親の気持ちがよくわかる。家族に心配をかけないために何とかお金を稼ごうとしたり、払ったりする普通の人の物語。絶妙に刺さった。

『アーモンド』以来のソン・ウォンピョン2作目。大企業で非正規インターンとして理不尽な思いを抱えて働くキム・ジヘが主人公。方法はともかく同僚ギョオクの提案で､ウクレレ教室で知り合った仲間と結託し､人の努力の成果を搾取して成り上がった者に反撃するに至る様子が描かれる。特に､同姓同名のキム・ジヘと対峙した場面が印象に残った。30歳なら､燻っているよりも環境リセットして新転地で仕切り直す方がよいのかもしれないと思える結末。働き方の指針は色々だが､非正規の働き方は小細工と機転と要領のバランスという表現がツボだった。