資産家の光子に近付くため、大宮のビジネスホテル清掃員として働く日村天使が主人公。幼い頃から大家族番組で撮られ続けるが､生活保護を不正受給し､ネグレクトする両親の裏の顔が酷い。コミュ障だった天使が清掃のノウハウを覚え､正社員になり､ホテル1階に住まう光子や大木らに不動産や投資の指南を受ける場面がよかった。ひ香さんの得意分野､不動産投資のノウハウや節約術はもう少し詳しく読みたかったかも。うまくいきすぎのような天使の人生が覆ることを暗示するような不穏な結末。捕まったり誰かに追われたりするような気がしてしまう。

誰かに対する思い込みと事実との齟齬が醸す不穏な雰囲気を纏った10編の短編集。『あたらしい日よけ』のみ既読。冒頭『乙事百合子の出身地』の老女初子とセールスの莉里の、対面しているのに心ここにあらずな様子を一編の小説にできる筆致に感服。『刺繍の本棚』では夫の一大事に気丈に振る舞っている最中に突拍子もない出来事が起こり、『フィリップ猫』では夫の悪事を予想しつつ、なぜか祝福する行動を取っるという妻の心理の切り方が絶妙だった。真相をトラ猫しか知らない『墓』の結末もよかった。荒野さんの作品は癖になり、やめられない。

大人になると皆、髪が抜け落ちてはげるという設定の物語。学生時代から髪や眉が薄く気にしていた真知加だが､友人がはげた後に髪が生え始める。多数派になったはげた人々はウィッグを使い分けたり頭皮にタトゥーを入れたり､ありのまま過ごしたり､人知れず髪の生える薬を飲んだりと自由度が高いが､少数派になった髪のある人々は､はげている友人にばれたら疎遠になることを気にしながら過ごしている。結末､佐島の「生える人が出てきちゃ困る」発言は､どんな分野の多数派からも生まれがちな極論で､万人が多様性を認める社会が幻想に思えてくる。

資産家の光子に近付くため、大宮のビジネスホテル清掃員として働く日村天使が主人公。幼い頃から大家族番組で撮られ続けるが､生活保護を不正受給し､ネグレクトする両親の裏の顔が酷い。コミュ障だった天使が清掃のノウハウを覚え､正社員になり､ホテル1階に住まう光子や大木らに不動産や投資の指南を受ける場面がよかった。ひ香さんの得意分野､不動産投資のノウハウや節約術はもう少し詳しく読みたかったかも。うまくいきすぎのような天使の人生が覆ることを暗示するような不穏な結末。捕まったり誰かに追われたりするような気がしてしまう。

『生き方の問題』は2歳年上の従姉、貴子へ恋慕している祥一からの手紙形式で綴られる。詳細に描かれる子ども時代から募らせた貴子への想い、その貴子からの誘いに翻弄された失意の裏に逆恨みが潜んでいるようにも読め、青臭い一途さの果てを思うと不穏な結末。（続編を先に読んでしまったらしい）表題作は大学を卒業する景子が認めていた日記や亡き叔母との旅行の回顧を軸に描かれる。周りの大人が自分をさりげなく心配し、愛してくれていることに気付ける機会を、節目を迎えた景子に与えるべく行動するこの家族。とても素敵だと感じた。

久々に手に取った最果さんのエッセイ。巻末によると雑誌等よりネットで発表された作品の方が多い印象。冒頭数編で、若い子向けだったかも？と焦ったが、「言葉は悪人になったほうが書きやすいと思う」「愛は全部キモい」「誰のことも嫌いだな、と思うことは時々ある」などという言葉が次第に馴染んで、『インターネット蕁麻疹』には共感しかなく、最果さんを時々読みたくなる理由を感じながら読んだ。『飽きてOK』とのことだけど、私にとって最果さんは2~3年おき位に自分の感覚を確かめるための詩人であり、エッセイストかもしれないと思う。