先入観もあって始まりから『わたしを離さないで』を彷彿とさせる。哀しすぎて心酔できないあの作品。(けど、哀しくないイシグロなんてあったっけ？)どこか奇妙な、語られない何かが発する違和感。ぼんやりと翳った世界が少しずつ解き明かされていく感覚。冒頭からやるせないムードに包まれるが、主人公クララは常に前向きだ。私よりずっと純粋にひたむきに前を向く。人形なのか機器なのか、自分が置き去りにして来た過去と折り合いをつけられずにいる間に、物語は終わる。あー、この余韻がイシグロ。素晴らしいな、この人はほんとに。大好きだー。

味のある俳優さんである。が、最近立て続けにドラマで追いかけたせいで、もう、私の中で井之頭五郎とあまりに同化してしまい、読んでいてもお馴染みの歌が心の耳に流れてくる。松重さんのトークなのにゴローの語りにも聞こえるというか。どちらも食に愛とこだわりを持ってるわけだから、しょうがないか。食は体験なので当然懐古寄り、中でも振り切ったオジネタが食の旨味で一絡げなのはやや惜しまれるが、楽しんだ。自由に添えられたあべさんのイラストもいい。おにぎりとかほんと海苔の質感がすごい。正直ジャケ読みだったな、と今気づく。

ヴェネツィアは他の町とは違ったのだと。けれど歩けば歩くほど終わらない焦燥感に駆られたという。今回も内田さんが出会った人や想いを眺めていく。土地に根付きどっしりと構えるおおらかさ、ひらひらと人を行き交った後の日暮れのテーブル、守りたいものに寄り添う姿ー守るべきは緑、文書、子どもたち、日々の暮らし、尊厳など、人それぞれだったけれど。肯定も否定もなく、そこにある。読むうちに好きになっている。

突如現れた「わたし」が何者なのかどうなるのか、ストーリーを追ってしまうと、ラスト取り残される。ジャケ読みイメージの通り、全体的に静謐で、場面がプツプツと切り替わるところは映画的かもしれない。「わたし」の感情は読み取れず、人々の振る舞いや言葉に気持ちを乱され、どんどん色濃くなっていく不協和音と薄気味悪さに決着を求めて読み進んでしまった。噂の祭りが怖すぎたが、この終わりだとちょっとズルいなと感じてしまう。そんな読み方になる自分も、何かを型に嵌めずにおれないということか。くく。

「ハックルベリー・フィンの方が好き」という共通点(てか瞳は少年的な匂わせ)で恋が始まる漫画を読んで、なんかイイ、のイメージがあった。ほんとか？という疑いとともに。そして私にとって柴田元幸はいかにもハックの方が好きとか言いそうな人である。出来過ぎな装丁を見てもさもありなん、だ。しかし、はちゃめちゃだが面白かった。気ままなカヌーでの冒険。トムの暴君ぶりに、ハックの好きにさせてやれよ！と苛立ったりもした。こうなるとトムの方も読み返さないとフェアじゃないが、多分柴田元幸はトムには目もくれないだろう。結論出ないな。

先入観もあって始まりから『わたしを離さないで』を彷彿とさせる。哀しすぎて心酔できないあの作品。(けど、哀しくないイシグロなんてあったっけ？)どこか奇妙な、語られない何かが発する違和感。ぼんやりと翳った世界が少しずつ解き明かされていく感覚。冒頭からやるせないムードに包まれるが、主人公クララは常に前向きだ。私よりずっと純粋にひたむきに前を向く。人形なのか機器なのか、自分が置き去りにして来た過去と折り合いをつけられずにいる間に、物語は終わる。あー、この余韻がイシグロ。素晴らしいな、この人はほんとに。大好きだー。