残った日本人は「新ベトナム人」と呼ばれ、戦場で死んでいった人も多いという。だがベトナム労働党は、民族独立運動における勝利は、ベトナム人民の努力の成果であって、外国人(日本人)の貢献を認めたがらなかったばかりか、その痕跡を消そうとしたフシもみられる。……サイゴンが陥落したあと、「ようやくわれわれの真価を発揮すべき時がきた」と張り切った元日本兵たちの顔がいまだに忘れられない。しかし、結果は、彼らの期待も空しく、革命政権にとって「元日本兵」は、反革命の象徴でしかなかった。p.419
陥落後、サイゴンに“入城”したハノイの軍人や、党官僚たちも、多くの犠牲者を出しながら民族解放闘争を進めてきた南の解放戦線と、その支援者たちにきわめて冷淡であり、一日も早く、新しい体制からはずそうとした。「民族民主の統一戦線」とうたい、ベトナム戦争の渦中では「南の独自性を十分に尊重する」と約束し続けたにもかかわらず、解放後始まったのは「解放戦線の排除」だった。……権力というものは、どんな時代、どんな体制下でも、そしてどんな組織の中でも、そう変わるものではない。p.419
しかし、ここでの清水[靖晃]の仕事は、明らかに21世紀における更新を示している。前述の黒澤/大河、以外にも「現代時代劇」は、テレビドラマ、劇映画共に数々の佳作を残してきたが、過去の伝統を踏まえつつ、フランス近代の響きを大胆に導入し、ワールドミュージック以降のエスニズム描写の技法を総て飲み込んだ、悠々たる「時代劇のオーケストレーション」の古典性と斬新さは、清水が我が国最高の映画音楽家の一人に位置される可能性を示していると断言できる。しかし、それが鳴らされる舞台は『さや侍』なのである。p.50
「総ての映画音楽の中で、何が一番好きか?」という難しい質問が、僕は、あまり難しくないんです。『アメリカの夜』の「グランド・コラール」。と即答すれば良いからです。……フィルムカウンターの回転に合わせて「グランド・コラール」のイントロ、ハイドン風の八分音符が走り出すシーンが頻出するんですが、不覚にもその都度その都度落涙してしまいます。p.116
おれは延々と続く落下の真実、無限の落下の真実を愛する。おれは回復したりしない。何であれ真に破壊されたものは、おれには回復可能とは思えない。おれは慰めないし、慰められもしない。おれのベルトには「悪」に対する最も効験あらたかなお守りがぶらさがっている。それは真実への欲望だ。真実が死である場合もそこには含まれている。p.424
過去から逃れようとする魂たちは、実際には過去を追いかけているのであり、いつの日か、未来において過去に追いつくものなのだということを。過去には余裕がある。過去はいつだって未来の十字路で辛抱強く待ち受けている。そして過去から逃れたと思っていた人間に、過去はその場所で真の監獄への扉を開く。それは五室の独房からなる監獄だ。死んだ者たちの不滅、忘れられたものの永続、罪を背負うことの宿命、孤独という道連れ。救いとなる愛の呪い。p.457
ろうの子どもたちは、自分の家や、健聴者の学校や、健聴者の社会で孤立を深め、ときには自分がうとまれているとさえ感じるかもしれない。しかし彼らは他のろう者と出会うことによって、新しい家族、帰りつくべき家を見つけることができる。……「ある日、姉に連れられ、しぶしぶろう学校に足を運びました。そしてようやくわが家にたどりついたのです。そこで本物の愛情を経験したのです。はじめて私は自分が見知らぬ国のよそ者ではないという気分、共同体の一員だという気分を味わいました」[シャイン『家族はみな他人』] p.267
教育者の気質や禁止措置の相違を超えて、全世界で共通して手話を使いつづけてきたひとつの集団が存在する⸺ろう者に宗教的儀式を施してきた人びとである。司祭その他の聖職者は、口話法をめぐる論争が絶え間なく続いていたそのなかも、世俗の教育現場で<手話>の影が薄らいでしまってからも、協会区のろう者の魂を見捨てたりはせず、<手話>を学んで(ろう者から学ぶことが多かった)、ずっと<手話>を使って儀式をおこなっていた。p.269
Humor is way of holding off how awful life can be, to protect yourself. Finally, you get just too tired, and the news is too awful, and humor doesn't work anymore. ... I used to be funny, and perhaps I'm not anymore. p.129
We know so little about life, we don't really know what the good news is an what the bad news is. And if I die—God forbid—I would like to go to heaven to ask somebody in charge up there, "Hey, what was the good news and what was the bad news?" p.37
フリーが生きていく要諦は、なにかの仕事が当たったら、そこから「自分の二番煎じ」を続けることに耐えられるかです。二番煎じ、三番煎じを平然とやれて、しかも(ここが難しいのですが)「マンネリ」だと読者に思わせないことが肝心です。p.55
「これまでいろいろな出版社で仕事をしましたけど、出版社がダメになるときっていろいろありますが、ひとつは新社屋のビルを建てたとき。もうひとつはそのビルにガードマンが立つようになったとき、3つ目は首から社員証や入館証をぶら下げられたとき。そのとき出版社は死にますね。」……「あとお金を生むと、社員の給料がよくなるわけです。すると人間は保守的になってしまう。給料をアテにして35年ローンなんか組んでしまったら最後、いざというときにケツまくれないでしょう。」[都築響一] p.226-8
"ブータン"というのは外国人の呼び名だ。住民たちは、自分らのことをチベット文語体でドルック・パと書く。発音はドッパまたはルッパである。ドルックは竜とかいなずま(雷光)の意味なので、ブータンを竜国とも書く。p.264
ラマ僧が多いのも人口増加を押さえる原因になっている。出家は終生独身を守る。尼になる女も多く、尼寺も諸処にある。ラマ僧対策は人口増加を図る王様にとって大きい問題だ。「僧にも妻帯をすすめようと思うがどうだろう」と首相はまじめな顔でいった。私は「日本の僧はみんな妻帯していますよ」といったら、彼は信じられぬという顔つきだった。p.265
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"ブータン"というのは外国人の呼び名だ。住民たちは、自分らのことをチベット文語体でドルック・パと書く。発音はドッパまたはルッパである。ドルックは竜とかいなずま(雷光)の意味なので、ブータンを竜国とも書く。p.264
ラマ僧が多いのも人口増加を押さえる原因になっている。出家は終生独身を守る。尼になる女も多く、尼寺も諸処にある。ラマ僧対策は人口増加を図る王様にとって大きい問題だ。「僧にも妻帯をすすめようと思うがどうだろう」と首相はまじめな顔でいった。私は「日本の僧はみんな妻帯していますよ」といったら、彼は信じられぬという顔つきだった。p.265