前著から引き続き、風評加害批判のための思考枠組みは整理されて系統立ったものとは言い難いし、脚注リンクはURL掲示でびっちり埋まっていてお世辞にも親切な叙述とは言えない(このURlLは電子書籍で読んだときこそ本来の形で活用されたことになるのだろう)。しかしながら福島の地で現に生活し、科学的根拠に乏しい誹謗中傷に本人が心を痛めるばかりでなく、そうした中傷を苦にして近親者が自殺してしまった一介の生活者の憤懣やる方ない告発に、今なお「善意」から事故被災地の安全性を懸念する人ほど誠実に向き合うべきだと考える。
家畜の肉の味を覚えたヒグマがいつ「人食いヒグマ」に目覚めるか分かったものではない──神出鬼没のヒグマを煽情的に語った各位の脳裏には、かの『羆嵐』三毛別ヒグマ事件その他羆害事件の数々がよぎったことだろう。その三毛別ヒグマ事件以来という現地の縄張りを超えた協力体制のもとで、用心深いヒグマの僅かな痕跡からプロファイリングして捜査網を絞っていくさまは、あたかもサスペンス小説のような緊迫した筆致で、物見高い好奇心を満足させてくれた。しかし本書を読み終えたとき、カタルシスなき考察に我々は真顔にならざるを得なくなる。
著者は2022年参院選で当選したばかりの1年生議員でありながら、先の自民党総裁選では選管の一員として総裁選の公報やポスター作成に関わっていたのが記憶に新しい。表現の自由擁護の観点から、与党の内部から政策決定に関与する著者の立場は個人的に支持できるものだし、それを割り引いても好奇心旺盛で勉強熱心、先取気鋭を絵に描いたような姿勢は感銘を受ける。その一方で、漫画家としての著者をある程度知っていた身としては政治家適性にはさほど驚きはないし、誰にでも務まる仕事ではなく替えの利かない存在であると改めて理解させられる。
議員報酬や政治資金パーティ、海外視察など、昨今批判を受けがちな諸々の存在意義についても本書では言及がある。清貧を説いて禁止・廃止を唱える向きがあるようだが、目先のコストカットを進めた末に貧乏人が議員を続ける道が事実上閉ざされてしまったり、金銭的困窮からかえって汚職が増えるリスクがきちんと考慮されているとは思えず、自分は支持できない。かといって不明朗な会計処理で私腹を肥やすような不心得者を是認するつもりはないので、派閥解散のような奇策ではなく資金透明化を徹底して国民の監視に晒すことこそ民主政の正道と考える。
この機能をご利用になるには会員登録(無料)のうえ、ログインする必要があります。
会員登録すると読んだ本の管理や、感想・レビューの投稿などが行なえます
前著から引き続き、風評加害批判のための思考枠組みは整理されて系統立ったものとは言い難いし、脚注リンクはURL掲示でびっちり埋まっていてお世辞にも親切な叙述とは言えない(このURlLは電子書籍で読んだときこそ本来の形で活用されたことになるのだろう)。しかしながら福島の地で現に生活し、科学的根拠に乏しい誹謗中傷に本人が心を痛めるばかりでなく、そうした中傷を苦にして近親者が自殺してしまった一介の生活者の憤懣やる方ない告発に、今なお「善意」から事故被災地の安全性を懸念する人ほど誠実に向き合うべきだと考える。