敗戦国の日本に君主制が残された理由を、皇帝を奪われた戦間期ドイツの失敗を踏まえて説明するのは通説的理解に基づく説明だろうが、それだけで留めないところが実に著者らしい。戦前の日英王室外交を通じて立憲君主制の薫陶を受けた昭和天皇が、日本国憲法第1条の「象徴」としての地位を受け入れた経緯を説明する一方で、尊厳的部分(道徳的指導)と実効的部分(実務的指導)に分担することで憲政が国民の支持を調達しやすくなるという立憲君主制の長所を指摘し、これらが共にバジョット『イギリス憲政論』をルーツとするという記述は興味深い。
名誉革命を受けて英ジェームズ2世が血縁を頼って亡命したのが仏ルイ14世、そのルイ14世がアジアの巨大帝国から「絶対君主制」の手法を学んでいた可能性を示唆するなど、各国史の列挙に陥りやすいところを繋いで歴史の連続性を示すのが著者は抜群に上手い。自分は『ヨーロッパ近代史』で初めて著者のこの語り口に触れたが、相変わらず惚れ惚れとする出来だ。250頁足らずで実質的に世界史通史を書き上げられたのは、初学者向けのレーベル故でもあるだろうが、君塚先生には本書で飽き足らず今後もしなやかな通史を書いてほしいと願っている。
この機能をご利用になるには会員登録(無料)のうえ、ログインする必要があります。
会員登録すると読んだ本の管理や、感想・レビューの投稿などが行なえます
敗戦国の日本に君主制が残された理由を、皇帝を奪われた戦間期ドイツの失敗を踏まえて説明するのは通説的理解に基づく説明だろうが、それだけで留めないところが実に著者らしい。戦前の日英王室外交を通じて立憲君主制の薫陶を受けた昭和天皇が、日本国憲法第1条の「象徴」としての地位を受け入れた経緯を説明する一方で、尊厳的部分(道徳的指導)と実効的部分(実務的指導)に分担することで憲政が国民の支持を調達しやすくなるという立憲君主制の長所を指摘し、これらが共にバジョット『イギリス憲政論』をルーツとするという記述は興味深い。
名誉革命を受けて英ジェームズ2世が血縁を頼って亡命したのが仏ルイ14世、そのルイ14世がアジアの巨大帝国から「絶対君主制」の手法を学んでいた可能性を示唆するなど、各国史の列挙に陥りやすいところを繋いで歴史の連続性を示すのが著者は抜群に上手い。自分は『ヨーロッパ近代史』で初めて著者のこの語り口に触れたが、相変わらず惚れ惚れとする出来だ。250頁足らずで実質的に世界史通史を書き上げられたのは、初学者向けのレーベル故でもあるだろうが、君塚先生には本書で飽き足らず今後もしなやかな通史を書いてほしいと願っている。