形式:文庫
出版社:講談社
形式:Kindle版
さらに日本の法の章になると、多くの問題点が散見される。まず、古代日本は農耕民族としているが、「古代」とはどの時点を指しているのか不明確だ。また、日本国の法としていわゆる大和民族の法のみを挙げている。日本の先住民族であるアイヌ民族は狩猟を行っているが、著者はどう考えていたのか。また「和」を大切にするという日本国民の気質を挙げているが、その根拠として、「十七条憲法」を挙げている。しかし、これは当時の公務員法のようなものであり、朝廷をそこまで意識していない庶民の習慣だったとは必ずしも言えないのではないか。
また、明治における代表的な法として「明治憲法」を挙げているが、そもそも明治憲法は、植木枝盛の私擬憲法草案や、五日市憲法草案、立志社の日本憲法見込案などの、庶民や国民が作成した草案を参考にしておらず、「藩閥政府」が国民に押し付けた憲法である。著者は現行の憲法は押し付けられたものと述べているが、太平洋戦争終結後に日本側が作成した憲法案が明治憲法と大差なかったこと、現在の憲法は明治期の私擬憲法を参考にしていること、そもそも明治憲法が国民に「押し付けられた」ものであることを、著者は考慮さえしていないのである。
この柔軟性が日本を特徴付け、アメーバ性とも呼ばれる。技術は容易に得ても、理念の習得には時間がかかる。アメーバ性で西欧法思想は受容したけれども、その核心たる市民意識は依然として確立したとは言えない。不十分な市民意識が裁判にも反映されている。
しかし、そもそも西欧裁判が神の審判の地上の表れと理解するのならば、キリスト教圏外の日本の裁判は西欧式裁判の変種という形でしか表れないのだろう。
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さらに日本の法の章になると、多くの問題点が散見される。まず、古代日本は農耕民族としているが、「古代」とはどの時点を指しているのか不明確だ。また、日本国の法としていわゆる大和民族の法のみを挙げている。日本の先住民族であるアイヌ民族は狩猟を行っているが、著者はどう考えていたのか。また「和」を大切にするという日本国民の気質を挙げているが、その根拠として、「十七条憲法」を挙げている。しかし、これは当時の公務員法のようなものであり、朝廷をそこまで意識していない庶民の習慣だったとは必ずしも言えないのではないか。
また、明治における代表的な法として「明治憲法」を挙げているが、そもそも明治憲法は、植木枝盛の私擬憲法草案や、五日市憲法草案、立志社の日本憲法見込案などの、庶民や国民が作成した草案を参考にしておらず、「藩閥政府」が国民に押し付けた憲法である。著者は現行の憲法は押し付けられたものと述べているが、太平洋戦争終結後に日本側が作成した憲法案が明治憲法と大差なかったこと、現在の憲法は明治期の私擬憲法を参考にしていること、そもそも明治憲法が国民に「押し付けられた」ものであることを、著者は考慮さえしていないのである。