形式:単行本
出版社:河出書房新社
表題作の中で作られるカクテルがあまりに美味しそうなので、ジンにベルモットにオリーブの実って、絶対有名なやつだ、何だったかなーと調べてみたら、マティーニだった。カクテルの王さまを思い出せなかったとは(汗)。でも驚いたのは、そのレシピ。作品内では、ベルモットが2/3、ジンが1/3になっている。マティーニってジンがベースだと思ってた。女が男に手渡すのなら、配分が逆の方がしっくりくると思うんだけど、著者に何か意図があるのかな。カクテルに詳しい人がいたら、このレシピの味を想像して語ってもらいたい。
特に印象に残ったのは、2048年にヒトラーとアンネ・フランクのアンドロイドが遭遇する『もうひとつのラブストーリー』。SFショートショートの味わいで、読後は口の中に苦味が拡がる。
あの事件があっただけに、衝撃的なタイトルですが、首相が撃たれても若者は特にこれといって昨日と変わらない一日を送る。国民≠国家、政治よりも生活、人間は政治思想では生きていない。人の日常、恋愛や妻の病気の心配や若者のモラトリアムが兵役や国家の都合を凌駕する。ロシアの一般国民もその多くがプーチンコを指示していないのだろう。兵役中に届いた彼女からのお別れの手紙を上官が渡そうとしない。上官を銃で脅し手紙を受け取る若者。寒いテントの中で手紙を読み涙する。
政治的プロパガンダより恋人の愛の言葉を生きる杖にする方が自分には大変に健康的なものの感じ方に思えます。例えば初号機が東条英機で2号機が原爆の子ども達だったら何を想うかな~と想像してみました。ご紹介ありがとうございました。
忘却の方向?どの短篇にもイスラエル独自の問題が影を落とし、非日常に侵食された新たな日常が現れるが、同時にどんな状況であれ日々の平凡な瞬間があり、それらを逃さず描き出す。戦後イスラエルへの移住の理由として、ヨーロッパがユダヤ人の孤児を必要としないうえ、今後もドイツで少数派として生きるのは余りにも怖いからだと、1925年生まれのユダヤ人作家サロモン・ペレル氏は語ったが、それでも現在のパレスチナ問題はイスラエルに非があると(ケレット氏も)欧州の支配層はユダヤ人を追い払い国を与えたが今なお混迷している。
【追記】今現在の状況で、昨年11月に書いたメモをアップ。何処まで歴史を振り返るか?英国始めヨーロッパの責任まででも焦点がぼやけ、復讐とその正当化になるので、あくまで近年のイスラエルの責任とするのが現実的。ハマスが必ずしもガザの人々を代表している訳ではないことなど問題は山積だけれど、難しいから出来ないでは政治の意味は無い。作者が来日して直接お話を聞けたのも今は遠く感じる。どうか一刻も早い和平を願う。
2022年10月の新刊。意外と表題作が一番ピンと来なかったかも。作風をつかむ前だったので肩透かしを食らってしまった。これは冒頭に持ってこない方が良かったのでは、という気がしないでもない。
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