形式:単行本(ソフトカバー)
出版社:新潮社
《まさにこの時期、仕事に対する新たな信念が熟していった。その数年前まで、彫刻は肉体的活動、つまり自分の身体と大理石の魂との戦いだという考えが常に頭にあった。本能的に石を攻撃し、石はその攻撃におとなしく従っていた。だが、ラオコーンを見たあと、彫刻家の役割は他にあることに気がついた。女性の胎内にいる胎児のように、彫像はすでに石塊の中にある。わしはそれをノミで外へ引き出し、つかみとらなければならなかった。だが、それは、叡智の教えに従うことでしかできないのだ。》
《ダヴィデの顔のように、額の眉をひそめ、目をくぼませた。これまでの聖像には決して見られなかった厳しい顔を表現できたと思う。そして彼の内に潜む力は、まるで火山が噴火する寸前のように暗示するだけにした。わしのモーセはシスティーナ礼拝堂の天井に座る預言者たちに似てはいるが、大理石は彼をはるかに生き生きとさせ、迫真感を出している。ほんの少し光がかすめただけで、波打つ髪は震え、陰影の効果を生み出す。これはいかなる方法でも絵画では得ることのはできない。》
昔々『華麗なる激情』というハリウッド映画を見たことを思い出した。チャールトン・ヘストンがミケランジェロで足場を組んでシスティナ礼拝堂の天井画を描き、レックス・ハリソンのユリウス2世と喧嘩していた。ヘストンの表情の乏しさがミケランジェロ向きだったんだなと思う。原作はアーヴィング・ストーン『苦悩と歓喜』
星落秋風五丈原さん、こんにちは。『華麗なる激情』私も見ました。ミケランジェロ像、共通のものがありましたね。
たまさんみなさんこんばんは。割と古い映画ですけど有名ですよね。最近だと惣領冬実さんの漫画『チェーザレ』で若きミケランジェロを見ました。
挙げていたようにライト…読み易くはあるが…で終わった。ただ小説としては物足りないが、作者は美術史家、キュレーターで、かなり史料に忠実なので、基本情報の伝達、ミケランジェロの手引書としては良いかもと補足する。経歴は似ているが、余計な?物語てんこ盛りの原田マハ作品とはそういう点では逆。彫刻家ミケランジェロ本人については絵も非常に上手いが、長年のレオナルド・ダ・ヴィンチファンとしては対岸から見ていた。最近の新潮クレストブックスには色々思うところがあるけれど、時々これは!という作品もあるので完全には離れられない。
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