形式:新書
出版社:岩波書店
【携帯電話持たず終らむ死んでからまで便利に呼び出されてたまるか(斎藤史『風翩翻』)】<斎藤の父は予備役の軍人で歌人の瀏。小学生の頃からの友人が2・26事件の中心人物として処刑された栗原安秀。父は幇助罪で禁錮5年の判決を受けた。「濁流だ濁流だと叫び流れゆく末は泥土か夜明けかは知らぬ」「暴力のかくうつくしき世に住みてひねもすうたふわが子守うた」(『魚歌』)といった激しい社会との関わりを訴えた歌人としての斎藤史がいる/伝法な口調がいかにも斎藤史らしい。こうなると、ただただ「スゲエナー」と苦笑いするほかない>と。
【ながきながき思い心に重ねつつ老年というさびしき時間(近藤芳美『岐路以後』)】<壮年期に頑強で、病気知らずの生活を送ってきた人々にも老いは訪れる。本人たちは多くを想像していなかっただけに、その孤独感や嘆きは切実である。そのひとりに、1913年生まれで、2006年に93歳で亡くなった近藤芳美がいる。いわゆる戦後短歌のリーダーで、時代や社会を歌うという基本的姿勢を貫こうとした。だから、晩年にいたるまで「老い」などは詠まないと、様々な場面で発言を繰り返していた>近藤も、このような孤独を噛みしめる作品は作ったと。
人間や社会について、20世紀には三つの発見があったという。それは「無意識」「未開」「子ども」という領域である。以前はどれもまったく意識されなかったものだ。「老い」もそれらと同じように、20世紀後半から浮上してきた未知の広大な領域かもしれない。「老い」という時間をいままでに人類は経験してないからだ。
この機能をご利用になるには会員登録(無料)のうえ、ログインする必要があります。
会員登録すると読んだ本の管理や、感想・レビューの投稿などが行なえます