形式:新書
出版社:中央公論新社
前近代の帝国はどこでもそんなものかもしれないが、清朝は基本的には公衆衛生などにタッチしない「小さな政府」で、強力な保健統制を進めた欧米の近代国家に比べると感染症対策に苦戦を強いられた、という話。それがコロナ関連では、有無を言わさぬ力技の対策が(少なくとも表面上は)奏功した中国が欧米に対して自信を持つような構図になっていて、何とも言えない因果を感じてしまう。
良書だが「731部隊にはあえて触れなかった」とのこと。日本の植民地医学や日本医師が感染症の封じ込めに貢献したということについて、中国では黙殺されていると批判するのならば、それもまた片手落ちなのでは。毛沢東の「送疫神」という日本住血吸虫封じ込めたぜヤッターな七言律詩まで載ってて面白かった。
また、マラリア・コレラ・日本住血吸虫病など、感染症対応の黎明期の模様が開陳される。◇ここでアフリカ豚コレラやデング熱など、公衆衛生の点で、アフリカ諸国が未だ黎明期でしかない実情を考えると、本書にある中国近代での公衆衛生の黎明期の模様を参考に供する意味は決して小さくないはずだ。◆ここで、いわゆる植民地における公衆衛生の貫徹、例えば、種痘実施の多さは、反面として支配地域における個人的生活領域への介入度合いの強さと同値だと。自治性の低さ、政治的自己決定権の範囲の狭さに帰着。支配権力の強権性の表れと見ている。
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