形式:単行本
出版社:東海大学
高校生以来の再読だが、今回は北御門二郎訳で読む。最小限の注釈と達意の日本語で読みやすかった。ネフスキーの代わりにニェフスキー、ネフリュードフの代わりにニェフリュードフなど、耳慣れない表記だが、こちらの方が元のロシア語の発音に近いようだ。
トルストイの思想は余りに理想主義で素朴、性善説にたっている。その真摯さには心打たれるが、今となっては主張自体に共感することは難しい。むしろこの作品で印象に残ったのは、政治犯の人々の描写だ。中世さながらの封建的ロシア社会に蓄積した矛盾や不満が巨大なエネルギーとなって充満する中、外国から流入した急進的な社会思想が火種となって、あちこちで小規模な火災が起きている。強権的手法で押さえつけてはいるものの、やがて革命という大爆発に至る前段階のありさまがリアルに描かれていて、読み応え十分だ。
これで、故北御門二郎氏が訳したトルストイ三部作を読了できた。トルストイの平和思想に共鳴し、良心的兵役拒否を貫いた氏のことはご存じの方も多いと思うが、読メの登録数は残念ながら少ないようだ。出版後40年近くがたち、さすがに古さを感じさせる部分はあるけれど、とかく意味があいまいになりがちな日本語を駆使して、これだけ緻密で明快、しかも直訳調に陥らない訳文を構築されたことは驚くばかり。大手出版社から文庫で出ていれば、間違いなく稀代の名訳として版を重ねただろうに、マイナーな版元だったことが返す返すも惜しまれる。
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高校生以来の再読だが、今回は北御門二郎訳で読む。最小限の注釈と達意の日本語で読みやすかった。ネフスキーの代わりにニェフスキー、ネフリュードフの代わりにニェフリュードフなど、耳慣れない表記だが、こちらの方が元のロシア語の発音に近いようだ。