「高橋源一郎の飛ぶ教室」でほむほむが出演したとき短歌がマイナーだと思うのは一番好きな短歌と聞かれないと言ってました。映画とか小説は聞かれるのに短歌はないと。好きな短歌が出来ると作りたくなるかも。
シャーペンの先から芯を入れる眼をして蜜蜂を食おうとする猫/自らの毛並みの延長線上の毛布をなめて猫眠りゆき/走れば息は血の香りするいつだろうマスクが季語を取り戻すのは/まず倒すそれから剥がすボス戦に挑むみたいにミルフィーユ食う/棒を目から前頭葉まで入れてゆく手術と思う桜の挿し木/締まらないねじは締まらないままにして日光東照宮のような机だ/いつもなら片付ける側である者の嘔吐を猫はじっとりと見る/ふくろうが飛ぼうと羽を拡げたら現れるロープに繋がれた足/足首を何度も何度も蚊は刺してアキレスならば死んでるところ
川島結佳子さんという歌人の第二歌集「アキレスならば死んでるところ」を読みました。カリスマ的な感じはなく、日常をからりと歌う感じで私は好きでした。北山あさひさんにやや近いですが、北山さんのようなストーリーテリングのうまさはない感じ。あくまでも日常のただごと短歌に徹している感じでした。それもありだと思いますが、たくさんの歌集が出ている中ではやや弱いのかな(話題性に欠ける)とも思いました。自分しか詠めない歌の領域を見つけるのは難しいのかもしれないですね。
(好きな短歌を抜粋します)ひさかたの整理番号発券機たましいの列ならあちらです/タクシーのトランクが静かにひらく 何も始まりなどしないけど/ハイオク131レギュラー142経由02サンダルで横切る夜/もうそれも知らないままでいいと思う知らない植物の調べ方/逃げるようにホームセンターを後にして死ぬかと思うほどの夕焼け/十円でも高いものと一万円でも安いものが並んでいる千円ならわかる物を買う/ここは下水道ここは地下道地層を探るように体をほぐされる/空いていくたびに眩しくなるバスにリュックを抱きしめて眠るひと
岡野大嗣さんの短歌と散文の本「うたたねの地図-百年の夏休み」を買いました。発売日は8月10日のようですが大阪の蔦屋書店では1週間以上前からサイン本を売っていたようです。たぶん同書店にはまだ在庫があると思いますし紀伊国屋書店など他の書店でも何かしらおまけがつくみたいです。(って回し者か私は)かんじんの本の中身ですが、岡野さんはやっぱり散文の人じゃなくて韻文の人だと思うのです。短歌はよかったのですが、エッセイはちょっと何が言いたいのかわからなかった。何が何だかわからないように意図して書かれているのかなあ?
オレンジと胡桃、涙とピスタチオ、薔薇と荒野のパウンドケーキ/〈自己肯定〉できていますか?チャーハンの中のなるとのピンクのかけら/張りぼての二十歳のわたしが振り返る 孤独はもっとずっと低カロリー/揺れている陽ざしの下に街はありレントゲンなら痛みが見える/海峡を一週間で渡りきる桜の紙のゆるい背泳ぎ/傷ついてとても眩しいみずうみに目薬満ちてゆく昼さがり/本棚に隠し扉があるように五月の森に昏き橋あり/紙詰まりを放置されたるコピー樹のつめたき胸へ手を差し入れる
北山あさひさんの第二歌集「ヒューマン・ライツ」も読了しました。「崖にて」は一日で読み切ったのですが、こちらはちょっと手が止まってしまい、今日までかかりました。タイトルもだけど、プロ歌人になるとなんか社会批判的なことをしないといけないとか、プレッシャーあるんでしょうか?やや無理してる?と思わないでもない感じです。でも北山さんの短歌のリズム感というか、独特の韻律は変わらず、気持ちよかったです。
風の日に鳴っている絵馬走れ走れ願った分だけある落とし前/いちめんのたんぽぽ畑に呆けていたい結婚を一人でしたい/燃やしたら歓びそうな枯れ野原つづいて北の東の東/母でなく妻でもなくて今泣けば大漁旗がハンカチだろう/巨大なる会いたさのことを東京と思うあたしはわたしと暮らす/物語始めるようにお葬式一回分の貯金をおろす/じきに雨やがて戦争ばらばらとクロワッサンは壊れるばかり/ごめんなさいデモには行きたくない すーっと風から夜が始まってゆく/紅茶から引き上げるときそれなりにディーバッグ重しオーロラ速し
北山あさひさん「崖にて」よかったです!いやー若手の女性歌人の中で一番好きかも?巷で人気なのは岡本真帆さんあたりだと思いますが、私、北山さんをイチオシです。若手とはいえ、もう40代にはなっておられると思いますが。
「さあここであなたは海になりなさい 鞄は持っていてあげるから」(笹井宏之)「はらってもはらっても落ちる砂ならば連れて帰ろう どこに? どこでも」(宇都宮敦)
同時代の歌人なので与謝野晶子とかは出てこないですが、笹井宏之さんは出てきます。彼以外に故人がいるのかはちょっとわからず・・・。
「海のうた」より抜粋。「あなたから生まれる前の夢をみた波打ち際の電話ボックス」(藤本玲未)「海開きひとりで祝うビニールシート広げて去年の砂を逃がして」(山崎聡子)「光るゆびで海を指すから見つけたら指し返してと、遠い契約」(石川美南)「白き線踏めば悔いの多きことゆらりと満ちる 海がみえます」(東直子)「三年をみなとみらいに働いてときどき海を見るのも仕事」(本多真弓)「テーブルの上に魚が死んでいてここは海底だったと気付く」(鈴木晴香)「机にも膝にも木にも傷がありどこかで海とつながっている」(江戸雪)
小島ゆかりさんの「純白光」より。「夜間飛行の機内しばらく消灯しだれからもいま遠い瞬き」「むらさきの空気冷えつつ水鳥もわれも日暮れの臓腑のごとし」「いちめんの鯖雲がゆく空のしたコンビニ跡にコンビニが建つ」「若武者の林檎と修験者の柿とわが家にて逢ふ時雨降るけふ」「おほぞらに寒き海ある朝明けを鳥は渡れり水のこえゑして」「シクラメンは一重瞼の女なり眼を細めては『いいのよ』と言ふ」「たくさんの山羊生まれたり白い山羊生まれたりこよひふかくねむらん」「こころゆくばかり自分を楽しめとグリンピースは遠くへ飛べり」
佐佐木定綱さん「月を食う」読み終えました。感想の方にも引用してますが、ここまでも連作の一部を引用してみます。
連作「ゴミ」>「残業を終えてひとりでおかき嚙み砕くと降り積もる包装紙」「本質を飲み込んでおり現象を積み上げており個包装菓子」「トイレットペーパーの芯積まれゆく従業員トイレの絆」「窓枠の外からのっそり現れてイカの内臓引き抜いてゆく」「歯周病の臭き息する老人が投げ捨ててゆくおれのレシート」「鍵穴の壊れた扉が捨ててあるもうこの世界出入りできない」「地球上からゴミ集め地球上までゴミ捨てに行く地球人」
佐佐木定綱さん「月を食う」より。「もっと早く生まれていたかったね」園児らはキックボードですり抜けてゆく/ダークモカフラペチーノを飲むおれの目線の先でキレる老人/「死ねばいい」女ら笑う隣にて啜るつけ麺の味をこそ思え
・・・ああ、面白い・・・(あくまで個人の感想です)
「たとへば君」、読了しました!・・・う~ん、歌集というより、エッセイに
近いですね、これは。学生時代の彼氏・彼女(歌会で知り合う)→ 結婚して
夫婦になる→男女の子ども産まれる(父母になる)→転職したり引っ越しする
(アメリカ含む20回)→長男、就職し結婚して孫も生まれる→妻の河野さん
に癌発覚→手術するも再発→死去、っていう40年間の軌跡が歌とともに
描かれてる。純粋な読み物としても面白い。何しろ、死の直前まで歌を詠んで
いるし・・・。これはオススメですね。「恋歌」って書いてるけど人生歌ですね、これは。
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