「彼女とはそれきりだが、その思い出だけが自分を支えてきたのだとYさんは言う。/Yさんは今年、30歳になった。」との最後の一文が切ない。 支えとの点では、神的な加護の体験後の交通事後を経て、死後は何もなく無意味であると確信する女性の長い独白「憑き纏い」もそうで、視える世界を反転させたものでも支えになる様は、確かに怪異ではないうえに、咀嚼するのに正直時間がかかり、今も考えあぐねる内容で、この女性の世界に共鳴する人に本著を捧げたいとする筆者の一言も加わり、よりいっそう考えあぐねさせる。少なくとも「ある/ない」の
二元論で留めるだけではよくないかと思うのみである。 怪異の認識との点で気になったものでは、予兆の受け止め方をめぐる困惑や葛藤の「先入観と仮説」「アベ?」。実家の神社へ反抗的な体験者が、それを怪異の原因とは思わず、周辺の人々だけが考え込む「しましま」。 それ以外の話では、過疎地域の空白に怪異が入り込む様を過去に描いた筆者が、同様の町の空白にその様を確認する「公園の残像」。家族の死亡年を予言する「祖父の書き置き」(久田樹生さんの類話では蔵書の書き込みであったが)。直球な学校理科室の怪談「浮遊体C」。
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「彼女とはそれきりだが、その思い出だけが自分を支えてきたのだとYさんは言う。/Yさんは今年、30歳になった。」との最後の一文が切ない。 支えとの点では、神的な加護の体験後の交通事後を経て、死後は何もなく無意味であると確信する女性の長い独白「憑き纏い」もそうで、視える世界を反転させたものでも支えになる様は、確かに怪異ではないうえに、咀嚼するのに正直時間がかかり、今も考えあぐねる内容で、この女性の世界に共鳴する人に本著を捧げたいとする筆者の一言も加わり、よりいっそう考えあぐねさせる。少なくとも「ある/ない」の
二元論で留めるだけではよくないかと思うのみである。 怪異の認識との点で気になったものでは、予兆の受け止め方をめぐる困惑や葛藤の「先入観と仮説」「アベ?」。実家の神社へ反抗的な体験者が、それを怪異の原因とは思わず、周辺の人々だけが考え込む「しましま」。 それ以外の話では、過疎地域の空白に怪異が入り込む様を過去に描いた筆者が、同様の町の空白にその様を確認する「公園の残像」。家族の死亡年を予言する「祖父の書き置き」(久田樹生さんの類話では蔵書の書き込みであったが)。直球な学校理科室の怪談「浮遊体C」。