暗夜行路が良かったことが、遠い記憶の彼方に。最近手に取る批評のどれにも、志賀直哉のことが称賛されているので、この中編を手に取る。不和だった父との和解。うーん……。この手の家族の不和みたいなことに、全然共感できないのでひたすら他人事として読む。結婚までして、もういい大人なんだから親に認められたい、許されたい、とかどうでもいいじゃないか、と思うのは家父長制の絶えた現代人の価値観か。子どもが亡くなるところはやけに真に迫ってるというか、父との和解以上に熱のこもった描写で読んでてつらかった。

暗夜行路が良かったことが、遠い記憶の彼方に。最近手に取る批評のどれにも、志賀直哉のことが称賛されているので、この中編を手に取る。不和だった父との和解。うーん……。この手の家族の不和みたいなことに、全然共感できないのでひたすら他人事として読む。結婚までして、もういい大人なんだから親に認められたい、許されたい、とかどうでもいいじゃないか、と思うのは家父長制の絶えた現代人の価値観か。子どもが亡くなるところはやけに真に迫ってるというか、父との和解以上に熱のこもった描写で読んでてつらかった。

大江による圧倒的な小説、というか物語。語り口は平易だが、そのスケールはただただ凄まじい。自らの生まれ育った四国の森、その歴史と神話、宇宙観と死生観が、多くの矛盾をはらみつつ進行し、やがて家族の物語に収斂してゆく。そして訪れるカタルシス。なぜそんなことができるのか。マルケスやフォークナーに匹敵する、神話そのものを作り出そうという気概と、それを成し遂げる筆力。気合いを入れすぎて難解になった『同時代ゲーム』をわかりやすくセルフリメイクした、というぐらいしか知らなかったが、これはかなりな傑作……。読めてよかった。

作家・ポールオースターがラジオの企画でアメリカ中から集めた、奇妙な実話をまとめた物語集。アメリカというものの姿がぼんやりと見えてくる気がする。それぞれの話はすごく短いが、中でも認知症の母親の話は泣けた。とはいえ、6歳の娘をひとり、大学生の新歓パーティーにいたずらで送り込む話とか、読んでて「おいおい、これだからアメリカは今や…」という気持ちになるものも。第2部もあるようですが、読みません。オースターとは相性が悪い。

小林秀雄の次は江藤淳。文体についての評論とのことだけど、前半は具体例がほとんどないまま、ひたすら作家の行動の軌跡が文体である、みたいな、抽象的な話が進んでいく。しかし、大江健三郎や石原慎太郎など、具体的な文体についての批評は面白い。全体としては……ちょっと苦しかった。

柄谷行人、中上健次が珍しく絶賛していた批評家。文芸時評なのでボロカスに言ってる感じが面白いが、しかしよくまぁ、ここまで言えるな。筒井康隆とか、そんな粘着せんでも。でも面白いことは面白い。最後はご褒美のように村上春樹論が。