2023年10月の読書メーター 読んだ本の数:8冊 読んだページ数:1385ページ ナイス数:357ナイス ★先月に読んだ本一覧はこちら→ https://bookmeter.com/users/1124113/summary/monthly/2023/10
「主人公から瀆(けが)れた淫乱女を読み取った読者は誰もいないだろう。逆に、力を尽くして根限り真実に生き抜くべく努めつつも、ついに及ばず破れ去って行く佐喜枝に、満腔の同情を惜しまないのである。行為の結果は不貞に相違ないにしても、精神的にはあくまで純粋で、瀆れを知らない可憐な女性を感取するからである。見逃してならぬ重要な一点は、美しい魂の所有者である三人の触れ合いから生じた悲劇も、畢竟は、戦争という、個人的には如何とも為し難い国家悪に依って演出されたということである」p240。
「富士を見に」は30分で読了できる17ページの短編。解説に結末まで書かれているので、解説は読後に読みたい。解説では「田宮の作品の中で結末の明るいこの一篇は、蓋し異色といってよいだろう」と書かれているが、主人公の若い女性と、これに関わる中年男性ともに、心情の描かれ方が浅く、男性の行動の謎は明かされないままで、ハッピーエンドとは言えない暗さの残る作品である。
興味深い記述としては、「ヌウ・ギネア」の「人喰い人種」を見た(p190)という部分。ニューギニア島のFore族では、家族のメンバーが亡くなると、遺族が弔いの儀式としてカニバリズムが行われており、この結果として、クール―という致死性の神経病(蛋白質が本体とされるプリオンによる感染症)が起こったことは医学史上有名(現在、カニバリズムの習慣は廃止されたので、クール―もなくなった)。本書に登場する人種がFore族と関係があるかは不明であるが「人喰い」の習慣がニューギニア島にあったことは事実。
なお、私は高知県土佐清水市の「ジョン万次郎資料館」を訪れる機会があったが、本書のファンにはおススメ。同館で紹介されていた万次郎関連の書籍で、写真が豊富で簡潔に万次郎の生涯が把握できるものに、万次郎の子孫である中濱京が書いた「ジョン万次郎 日米両国の友好の原点」があった。こちらは写真・図が豊富であり、「資料館」を訪れることのできない人にとっては、小説を補足するものである。
本作において、青年の逃亡は独り立ちには、はるかに遠い子供じみたものであるが、そうした小さく意味のなさそうな行動すら、あたたかく見守る小その。この姿は、作者岡本かの子が、息子の岡本太郎にそそぐ限りなく優しい愛情を彷彿とさせるものである。
苦労をして、奔放な人生も体験した小そのは、年を経て、自らは向上心を持って、満足せず、諦めずに生活し、次世代を担う若者には、自分の背中を見せながら、強制することなく、自主性を促し育てている。本作では、「小その=岡本かの子」といってよく、かの子が、死の前年に書いた名作である。
2ページの「用語紹介」では植物の花や葉の形状などの学術用語が図で説明されており、本文を読むときに重宝で、横倉山の植物図鑑というだけでなく、植物一般についても学べる本となっている。巻末に博物館の紹介、牧野富太郎が横倉山周辺で発見した植物、横倉山のマップが収録。
ここでは、ドラマでは紹介されなかった牧野が18-20歳のときに記した、15カ条の研究心得「赭鞭一撻(しゃべんいったつ)」が掲載。この内容は熟練した研究者が書いたと思えるほどの内容で、高知県立牧野植物園の展示室では現在、大きく取り上げられている。
本書では、その後の晩年の活躍を「第二幕」で、牧野ゆかりの地(練馬区立牧野記念庭園や高知県立牧野植物園、富士山の側面にある宝永山を牧野は醜いとしていたp99,など)を「第三幕」で紹介しており、ドラマのファンにも、牧野を深く知りたい人にも勧められる。また中綴じには「人物ファイル」として、牧野に関わった人々(牧野は、シーボルトが遊女であった妻の名前を花の名前につけたとして非難p53,寺田寅彦などp64)がまとめられている。
また、その後の八重として、晩年の八重の事が紹介されている数ページがあるが、この部分は、ドラマではほとんど描かれなかったので、本書では、もっと詳しく紹介して欲しかったところ。 「続完全読本」には「ゆかりの地を訪ねて」として、京都の史跡・建物が紹介されているが、特に巻末に地図入りで各史跡・施設が紹介されているページは、観光ガイドとして有用。 他にユニークなのは、「続完全読本」の会津若松城図p55で、城内で起こった事件と日付が書かれており、ドラマではわかりにくい、地形上の関係がわかるようになっている。
「完全読本」には「ゆかりの地を訪ねて」として、会津の史跡や建物が、「続完全読本」には京都のものが紹介されている。特に巻末に地図入りで各史跡・施設が紹介されているページは、観光ガイドとして有用。
5ページのエッセー「明治維新という出来事」は、ユニークな視点で書かれており読み応えがある。例としては、学校教育で学ぶ明治維新と会津の立場も踏まえた公平な視点でとらえた明治維新は異なるp32。白虎隊の悲話は、神風特攻隊になぞらえるなど国策に利用されたp33。会津は幕末時点の城下町の石高としては福島県内で最大であり県庁所在地となるべき城下町であった(県庁所在地になっていない城下町としては最大p34)。
納豆臭があり、糸引きがあれば、納豆と認定していよいp140 (16S rRNA遺伝子以外に)地域別での違いを検証するために、より変異の多いは入れるであるgryA, rpoB, polC, purH, groEL遺伝子を使用p171 多くのキノコの粒子はよく飛んでも、宿主植物の生息範囲にとどまるp179 高度数千メートルの山岳にも数百種の微生物種が浮遊p182
以下は改訂版のときに修正が望まれる箇所。 p43 誤「病原性をもち」 正「病原性を持ち」 p98 誤「二酸化炭酸」 正「二酸化炭素」 p124、125 誤「ポリサッカライド」 正「リポポリサッカライド=LPS」
Amazonのレビューは2009年くらいから投稿しております。本の長めの感想は、アマゾンの「荒野の狼」の上記URLをご参照ください。本職は医学部で微生物学・免疫学・神経難病などの教育・研究をしております。現在は大阪在住ですが、アメリカで21年間医学教育・研究をしておりました。職場のURLは以下です。
https://www.med.kindai.ac.jp/microbio/
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興味深い記述としては、「ヌウ・ギネア」の「人喰い人種」を見た(p190)という部分。ニューギニア島のFore族では、家族のメンバーが亡くなると、遺族が弔いの儀式としてカニバリズムが行われており、この結果として、クール―という致死性の神経病(蛋白質が本体とされるプリオンによる感染症)が起こったことは医学史上有名(現在、カニバリズムの習慣は廃止されたので、クール―もなくなった)。本書に登場する人種がFore族と関係があるかは不明であるが「人喰い」の習慣がニューギニア島にあったことは事実。
なお、私は高知県土佐清水市の「ジョン万次郎資料館」を訪れる機会があったが、本書のファンにはおススメ。同館で紹介されていた万次郎関連の書籍で、写真が豊富で簡潔に万次郎の生涯が把握できるものに、万次郎の子孫である中濱京が書いた「ジョン万次郎 日米両国の友好の原点」があった。こちらは写真・図が豊富であり、「資料館」を訪れることのできない人にとっては、小説を補足するものである。