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2023年7月の読書メーターまとめ

つちのこ
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2023年7月に読んだ本
28

2023年7月のお気に入り登録
9

  • 蘭奢待
  • 夜長月🌙新潮部
  • イズル
  • ネギっ子gen
  • 蒼
  • miel
  • ma-bo
  • R C
  • アイシャ

2023年7月のお気に入られ登録
9

  • 蘭奢待
  • 夜長月🌙新潮部
  • イズル
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  • R C
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2023年7月にナイスが最も多かった感想・レビュー

つちのこ
シカやイノシシなどの大型動物の猟の現場に立ち会ったことがないので、罠の設置から捕獲、解体までを臨場感溢れる筆致で記した内容に衝撃を受けた。少しでも嫌悪感を持ったらおそらく読めなくなるが、自然の恵みに感謝し、無駄なく食べるという著者のスタンスには好感が持てた。自給自足の生活を今の世に実践することは難しいが、私たちが山菜採りや釣り、潮干狩に心が躍るのも古来から受け継がれてきた狩猟民族としての証しではないだろうか。小さな肉の一片に生きていた姿を思うことも時には必要である。そんな当たり前のこと教えてくれたと思う。
が「ナイス!」と言っています。

2023年7月の感想・レビュー一覧
28

つちのこ
シカやイノシシなどの大型動物の猟の現場に立ち会ったことがないので、罠の設置から捕獲、解体までを臨場感溢れる筆致で記した内容に衝撃を受けた。少しでも嫌悪感を持ったらおそらく読めなくなるが、自然の恵みに感謝し、無駄なく食べるという著者のスタンスには好感が持てた。自給自足の生活を今の世に実践することは難しいが、私たちが山菜採りや釣り、潮干狩に心が躍るのも古来から受け継がれてきた狩猟民族としての証しではないだろうか。小さな肉の一片に生きていた姿を思うことも時には必要である。そんな当たり前のこと教えてくれたと思う。
が「ナイス!」と言っています。
つちのこ
シチリアを舞台にしたパッティの三部作『さらば恋の日』『しのび逢い』『シチリアの恋人たち』を読んだのはもう50年近く前。青春期のやるせなさとさわやかなエロティズムを丁寧に描いた秀作だった。それ以来イタリア近代文学の書き手としてずっと気になっていたが、今年になって手に入れたのが本書。まさに恋焦がれた人に出会ったような僥倖だった。1954年に発表され、日本語訳は1978年発行なのですでに古典の部類に入るが、今読んでもそれほど古さを感じない。著者自身を投影したジョヴァンニーノの少年期から壮年期の姿に、⇒
つちのこ
2023/07/30 16:53

⇒誰もが経験する青春の美しさと苦渋する老いの変貌を織り交ぜ、人生を映す走馬灯のように淡々と描いていく。ジョヴァンニーノの人生は波乱万丈ではなく、むしろ平凡である。その背景あるシチリア島カターニャのまばゆく照らす陽光が私にも重なり、人生もまんざら悪くないよと、日々老いていくもどかしさと不安を少しだけ和らげてくれたように思えた。

が「ナイス!」と言っています。
つちのこ
『アンネの日記』に先立つ前年に刊行された本書は、オランダ系ユダヤ人である著者が収容所での日々を克明に記したものだ。あらゆる国籍、人種、犯罪者や政治犯が収容されているなかで、ユダヤ人が最下層の序列に位置づけられていることが分かる。医師と看護師の夫婦であるハンス(エディ)とフリーデルが解放後まで生きながらえたのは、運以上に、生き抜くことへの執着と二人の強い絆があったと思いたい。人体実験が公然と行われた陰にはヨーゼフ・メンゲレの存在を示唆し、収容所での生活や、死の行進から解放前後の混乱が描かれたのも興味深い。
が「ナイス!」と言っています。
つちのこ
3つのペンネームを使い分けた文章に慣れ親しんできただけに、鬼籍に入ってしまったのは残念。今更だが本書で北上=キタガミだと知った。てっきりキタカミだと思っていたので、これではファンとして失格である。著者は生業で食えた数少ない書評家の一人だが、それは読書量と知識の深さ、卓越した文章力があってのこと。最後の章で、未読の本が並ぶ書棚の前に座って、何を読もうと選ぶだけで終わる至福を書いている。これこそ読書家冥利に尽きるだろう。煽り書評と知りつつも信頼し、多くの本と出会え、私もまた至福の時間をもてたことに感謝したい。
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つちのこ
「鉛筆を動かす女たちが日本の船を沈没させる」と比喩された、暗号解読により戦争を終結に導く原動力になった女性たちの存在が浮かび上がった。輸送路を断たれたことで日本兵が餓死し、捨て身の神風特攻隊に繋がっていく過程には戦慄を覚える。一方で、洒落た制服で仕事や食事を楽しむ女性たちと、もんぺ姿の日本女性とのギャップに国力の差を感じてしまう。暗号解読施設が重要視され、終戦後の米ソ冷戦時代から現代への諜報活動に受け継がれたのは米国の先見の明として、少なからず女性の雇用拡大と能力発掘、地位向上に貢献したことも見逃せない。
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つちのこ
少年の頃からもち続けていた疑問が一瞬にして氷解した、そんな気分にさせてくれた一冊。これを読まなかったらそれこそ墓場までもっていくところだった。例えば、なぜ虫は光に集まるのかという習性に対して、著者は「虫たちは暗い林床から林の外へ早く出るために夜空からやってくるほのかな光に向かう」と答える。ゴキブリや蝶の行動についてもしかり。エサを探して、あるいはメスを求めて体が動いていると説く。科学的な根拠を並べて、平坦でいて詩的な文章で教えてくれるのだ。セミの項では、今が盛りの蝉しぐれに、幼き日の情景が瞼に浮かんだ。
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つちのこ
才気溢れる瑞々しい文章に唸った。真っ直ぐに物を見る目と、その裏側を射抜くような感性は持って生まれた力だろうか。寂れた遍路宿の垢が浮いた風呂におののき、汚い柄杓で盛った飯に手を付けることもできぬお嬢様であり、“情け美わしく濃まやかにしかも高らかなる気品ある夫人こそ私の理想であり情景である”と書く。世間から疎まれ、忌み嫌われた遍路に飛び込んだ初々しい24才の女性が、その体験を通して、後に女性解放の旗手として活躍していく片鱗を十分に感じ取ることができた。それにしても当時の遍路事情は凄まじい。⇒
Sakie
2023/07/25 16:43

「お遍路」はだいぶ昇華されての執筆のようですね。この本も読まなければならないなと、つちのこさんのご感想を読んで決意しました。

つちのこ
2023/07/25 17:13

Sakieさん、こんにちは。『娘巡礼記』は著者のお遍路中から熊本日日新聞に連載されたルポなので文章としては整合性のなさや粗削りの部分が見受けられます。遍路に出た年齢を18才と言ったり、私、あたし、妾(わらわ)といった使い方、感情的になってやたらと泣いたり。旅先の宿で執筆をするのに追われて十分な校正や清書ができなかったかもしれません。その分、リアリティがあるので私は好感がもてましたが。『お遍路』も読んでみますね。

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つちのこ
ソ連軍の戦死者1万5千、アフガニスタンは民間人合わせて150万の死者と難民は400万人を数えた。ソ連軍が撤退した後に残された武器を手に、更に泥沼化が続いたアフガン紛争はいまだに収束の兆しはない。亜鉛の棺で帰還した少年たちの魂はこの現実を知る由もないだろう。日本製のラジカセに憧れ、戦況も知らぬまま送り込まれた兵士たちは、国家の統率者たちの犯罪的な歯車にされたことさえも気づいていない。これは今のウクライナ戦争とダブってくる。ソ連、ロシアは何度同じことを繰り返すのだろうか。本書で戦争の悲惨さと愚かさを⇒
つちのこ
2023/07/23 13:49

⇒突きつけた著者に対しての裁判にも、裏で蠢く国家権力の悪意がある。本人や家族たちの生々しい証言を読み進むほどマヒしてしまい、戦争=殺人という現実が重みを失くし、まるで日常生活の一コマに見えてくるのが恐ろしかった。

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つちのこ
「狭いながらも楽しい我が家」これは死語だろうか。単身世帯が爆発的に増えている今は、「狭い」と「楽しい」が切り離されたように思える。かつての、貧乏だけど家族が寄り添うように暮らしていた生活は、楽しさ=豊かさがあったと思う。私も昭和30年代から40年代にかけて、家族5人の狭い団地暮らしでそれを経験したからよく分かる。内田百聞や高村光太郎は、狭さのなかに積極的に豊かさを求めて楽しんでいるから、これは恵まれた人の粋な酔狂にも見て取れなくもない。しかし、貧富格差が住環境を決めかねない今はどうだろうか。⇒
つちのこ
2023/07/22 12:31

⇒たとえ二畳でもホームレスよりマシと思う人もいるだろう。本書で紹介されたお遍路が利用したという四国の茶屋は壁もない東屋。今でいう遍路小屋である。雨風が入るあけっぴろげな造りは、乞食遍路や不審者を締め出すための防犯対策である。これを住居として同列に論じるのはどうかと思うが、正岡子規の六畳間にしかり、表題の二畳にこだわっているわけでもなさそうなので、物足りなさを大いに感じてしまった。

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つちのこ
私が『土偶を読む』を痛快と感じたのは、オニグルミや栗に似ているという論証よりも保守的、権威的な学会・専門家批判(あるいは否定)にあった。竹倉氏が在野の研究者だからこそ自由な発想で書き出版できたと思うが、位置づけは所詮一般書でしかない。本書は縄文マニアである著者が自説を正当化するために専門家の応援団をはべらせて、鼻息荒く竹倉説を潰している。一般人どうし好きなだけやってくれたら外野は面白いが、では土偶の正体は何なのか?研究が進んでいるというなら、専門家はそろそろ成果を出してもいいのでは。まったく、じれったい。
が「ナイス!」と言っています。
つちのこ
ヒトラー政権下から続く正統派ナチと、戦後のナチス主義の復活を目指すネオナチの違いについてある程度の予備知識がないと本書の背景が分かり難いかもしれない。ナチを信奉する父はホロコーストの存在を否定し、娘をヒトラーユーゲントに仕立てようとする時代に取り残されたような愛国者だが、平凡な生活を夢見つつも、そこから逃れてより過激なネオナチの活動に入ってしまう著者は不憫である。何も知らない少女を誘導してしまうことこそ狂信的な思想の恐ろしさだろう。脱退の辛苦は筆舌しがたいが、本書は右傾化が進む世に一石を投じたと思う。
が「ナイス!」と言っています。
つちのこ
昭和の終わり頃、テーマソングまで覚えてしまうほど、CMにしつこく流れていた伊勢の元祖国際秘宝館。今更後悔してもしかたないが、ずっと気になっていながら訪ねなかった。おそらく恥ずかしさが躊躇させたんだろう。1980年代に一世を風靡した秘宝館も今ではそのほとんどが閉館となったが、果たした役割は決して小さくない。温泉地とセットの団体旅行の目玉になり、大人がこっそりと楽しめるアミューズメントパークでもあった。それゆえ経済効果も大きかったはず。単なるエロ文化の発信基地というだけでなく、昭和の娯楽を担った文化遺産と⇒
つちのこ
2023/07/19 19:31

⇒いってもいいのに、その位置づけが低いのは、タテマエとしてタブー視された性がウリだったからと察しがつく。掲載された秘宝館の画像を見ると、昭和レトロな看板のフォントや精巧な蝋人形、大掛かりな仕掛けに過ぎ去った時代を見ることができる。これが離散し消えていくのは残念でならない。文化装置と称え、学術的な見地から真面目に論じた著者の努力を買いたい。

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つちのこ
プーリモ・レーヴィの励ましもあってこの作品が世に出たという。少年期から晩年までを綴る珠玉の短編は一話完結のブツ切りではなく、自らのホロコーストを巡る体験が直接的に、あるいはさりげなく織り込まれており、計算された文章の流れと巧さに舌を巻く。ナチスが拡散したファシズムの潮流に飲み込まれた人々はユダヤ人ばかりではない。SS兵士やドイツ人、ポーランド人、ロシア人…であり、誰もが生き抜くために自分の立ち位置を必死に守ろうとしていただけである。ホロコーストの加害者、被害者という分け方はあまりにも短絡的であると感じた。
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つちのこ
ナチスの足音が近づくパリと、ロッキー山脈を仰ぐアメリカモンタナ州。50年の時を結ぶ、ひたむきに生きた女性の物語を堪能した。ナチスによるフランス侵攻から始まる怒涛の展開は、史実に基づいた手抜きがない描写に納得。自由を尊重するパリ人には到底受け入れられない、生真面目体質のドイツらしい門限や、不当逮捕や密告がはびこる狂気。パリ解放後にドイツ兵との不貞を理由に狩りだされた丸刈りにされる女性や、罪もないのに暴行を受けるボッシュの子が悲惨。これまで数多の関連本でこのあたりの描写を読んできたが、鬱屈した憤懣が爆発し、⇒
つちのこ
2023/07/16 11:02

⇒それが集団による残虐行為に変わる過程は人間不信に陥るくらいの生々しさだ。オディールやマーガレットもまたナチスの狂気に人生を翻弄された被害者であるが、自分の居場所を探す力強さのなかに、もろくも揺れる心を絶妙に描いている。そしてこの作品の肝でもある、本の力を信じ、図書館を開け続けることと、本を読む人全員に本を届けることがナチスへの抵抗の形だと、職業意識を越えた信念をもって活動する司書たちの姿が心を打った。

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つちのこ
ネタバレ著者没後の2011年に出版された作品だが、ホロコースト関連を読み漁っている身としても、これはかなりの衝撃作だった。ナチスドイツや旧ソ連に翻弄されたラトビアや、いまだにロシアの属国のようなベラルーシが舞台だけに興味が尽きない。戦時中の東欧のユダヤ人が置かれた状況やナチスの勢力図を知る上でも貴重な記録である。運命のいたずらといってもいいだろうか、ナチスSSの兵士となったユダヤ人の少年が部隊のマスコットにされた裏には、やがて降りかかってくる戦争犯罪の追跡から逃れるための謀略が見て取れる。無垢な子どもを⇒
が「ナイス!」と言っています。
つちのこ
ナウマンゾウとフォッサマグナの発見者というイメージしかなかったナウマンだが、わずか10年間の来日期間で成し遂げたその超人的な業績に改めて驚いた。来日してすぐにフォッサマグナと中央構造線の存在を提唱した見識は天才肌にも見えるが、根底には基礎となるフィールドワークあってのこと。日本列島の地質図は現在の物と比較しても遜色はなく、調査過程で岩手県三陸(ジュラ紀)、岐阜県赤坂(ペルム紀)、高知県領石(デボン紀)、岐阜県瑞浪(第三紀中新世)などの現在でも有名な化石産地に巡検し、更に示準化石の発見により⇒
つちのこ
2023/07/11 21:59

⇒三畳紀の存在を示唆している。化石好きにはたまらない記述だが、ナウマンの最大の業績は何といっても我が国の地質学の礎を築いたことによるだろう。学問以外の場で、プライベートの不幸な事件や東京大学門下生との確執、森鴎外とのボタンの掛け違いのような論争が独り歩きし、その功績が歴史からかき消された背景には、どこかに悪意的な意図を感じる。教科書を含めた学校教育の場でも広く紹介し、正当な評価をされるべき人物ではないだろうか。本書出版の意義は大きい。

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つちのこ
『フォンターネ山小屋の生活』を先に読んだので、順番が逆だったか?と気になったが、読み進むにつれそんなことはどうでもよくなった。森を歩き、尾根を攀じ、氷河を登る自らの姿を思い描くほど、心が躍動する至福の時間を味わえたことが嬉しい。山好きにとっては、物語の背景にたえず山があることはこれ以上ないほどの喜びであり、その世界にどっぷりと浸かることができれば言うことはない。バキバキの山岳小説でなくとも、山の厳しさや優しさを伝えることはできる。登場人物たちの人生模様もまた、あたかも山に包まれて同化したように輝いていた。
が「ナイス!」と言っています。
つちのこ
洗練された美味そうな料理やワインをなけなしの知識で思い描き、濃密な空気が肌にまとわりつくお洒落なパリの街角に、まるで自分が立っているような、そんな錯覚を味わいながら読んだ。ミッテランの帽子を手にした人の幸運を不思議な力のエピソードと言ってしまえば、子供だましのドタバタコメディで終わってしまうが、この作品の面白さはそれで終わらない奥行きの深さにある。ミッテランが生きた当時の社会情勢や風俗、芸術の息遣いがふんだんに描かれ、キーワードとなった帽子が見事に動き出す。最後の数ページの痛快なオチには思わず拍手した。
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つちのこ
著者の死後、未読本を読み漁っていたが、私小説についてはこの作品をして完読となった。中でも秋恵モノは作品群の中でも中核となるくらい筆を割いているが、貫多の粘着質の性格そのままに手を変え品を変え、最後には決まって暴力と反省の顛末に沈むという悪どいくらいのワンパターン。更に“にわか読み手”が離れていくことは計算づくで、嫌悪感を撒き散らすこのスタイルに辟易になることを見通して「だったら、読むなよ」と著者は天からあざ笑う。そんな中でも光ったのが『夢魔去りぬ』。離散した家族の話を書くとの決意に、ぜひ読んでみたかった。
が「ナイス!」と言っています。
つちのこ
ネタバレ横浜に流れてきた19歳の北町貫多を読む。バイト先で出会う同い年の女性への片思いや飲めぬ酒での失敗など、共感できる部分を探して私自身の遠い日の体験と重ね合わせたりもするが、やはりそこはどこにでもある爽やかな青春グラフィティで収まるはずもなく、期待を裏切らないアクの強さを存分に発揮してくれた。「流れていくうちにはいつか摑まる枝もあろうし、浮かぶ瀬だってある」浮世草のような汲み取り便所のその日暮しに、ほんの少し先の薄明りさえ見えぬ閉塞感。肩先をそっと掠めた師・藤沢清造との出会いが、一筋の光明になるのはまだ先だ。
が「ナイス!」と言っています。
つちのこ
著作完読のコンプリートを目指しているが、調べてみるとまだ未読の作品がいくつかあり、手始めにこれを読み始めた。だが、短編を3つ目まで読んで、再読だったことに気づいた。本作が出た2013年前後は読書記録も中途半端にしか残しておらず、それが災いしたようだ。しかし、二度目に違わずそれぞれの短編がリズミカルにテンポよく、鋭利な刃物のように突き刺さってくる。秋恵と過ごす日常を描いた『青痣』や、その後の顛末『膣の復讐』では、時には狂暴に、一転して弱味をさらけ出す。その有無も言わせない破壊力に改めて唸った。
が「ナイス!」と言っています。
つちのこ
アウシュヴィッツに移送された21万6千人の子どものうち、解放時の生存者は451人。そのうちのイタリア系ユダヤ人の姉妹が本書の著者である。収容所での体験を6才と4才の2人がどこまで記憶しているのだろうかという一点に関心をもって読み進めたが、当時の状況を等身大にリアルに書いていることに驚いた。中でも、ピラミッドと呼んだ死体の山の周りで遊んだという記述は、子ども目線ならではの驚愕の記憶である。解放から50年目にして、姉妹はアウシュヴィッツの真実を人前で語り始めるが、印象に残ったのは、ホロコーストは⇒
つちのこ
2023/07/06 19:53

⇒ドイツ人だけの責任ではなく、当時のヨーロッパ諸国にも責任があったということ。その根底にあるファシズムや、根強く残る人種差別や偏見について非難していることである。全体主義や右傾化が勢いを増している世界情勢の中で、ホロコーストの生存者は残り少なくなっている。悲劇の歴史を風化させないように記録し、グローバル視点で国を越えて次世代に継承していくことも、今を生きる者の責任のように思う。

が「ナイス!」と言っています。
つちのこ
このところ著者の新刊から離れていたので、最近の動向を知るうえで読んで良かった。コロナに罹ったことも知らず、ずいぶんご無沙汰してしまった。これでは長年のシーナファンとして失格だ。前半の日記では、西村賢太について、尊敬する作家であり、日記の天才であったとその死を悼んでいる。やはり見る人は見ている。そして後半のコロナ感染記は凄まじいの一言。本当に助かって良かったと思う。カバー写真の姿は随分とやつれたように見えるが、ワッセ、ワッセとビールを飲み、カツ丼をガシガシ食っていた彼も78才だ。まだまだ頑張って欲しい。
へくとぱすかる
2023/07/05 21:24

これ、「読みたい本」にします!

つちのこ
2023/07/05 21:27

へくとぱすかるさん、こんばんは。日記も読みやすくて面白かったですよ。コロナの話は冷や汗ものでした。

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つちのこ
過去に読んだことがあるエピソードが多くあったが、こうして一冊にまとまると、改めてシーナワールド全開の勢いを感じた。世界のトイレ事情のなかでも、とりわけ天安門事件以前の、1980年代初めの中国のオールオープントイレの話はそのまま臭ってきそうでぶっ飛ぶが、まさしく同じ頃に、中国で同じ体験をした私としても、著者に対して“腐れ縁”ならぬ“臭い縁”を見出して、妙な親近感が湧いた。後半のゲテモノ食いの話もおぞましい。これも中国で、美味い、美味いと言いながらお代わりまでして知らずに食べた蛇のスープが懐かしい。
つちのこ
2023/07/07 07:50

まーくんさん、こんにちは。中国、ずっと行ってませんが、今は変わったんでしょうね。あの頃の中国は日本より20~30年遅れていると言われてました。トイレ事情はもっと遅れていましたね。

まーくん
2023/07/07 10:28

つちのこさん、こんにちは。さすがに、あの発展した中国でそれはないでしょうね。1984年以来、行ってないのでわかりませんが。

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つちのこ
ナチス占領下のパリからドイツ、そして解放後のパリへ。その間、娼婦として戦火をくぐり生き抜いた女性の手記。「一かけらのパンのために体を売った」と語っているが、一方でポジティブな性格がそう感じさせるのか、切羽詰まった悲壮感はあまりない。むしろ、金を巻き上げるしたたかさや、自身の快楽を求めることが先行し、趣味と仕事が一体になっている生々しさがある。寡婦や失業者への苦肉の策か、売春は合法だったようで、娼婦には登録済証明書が発行され、当時の混乱の歴史が垣間見える。作者としてボーヴォワールの名も挙がったという。
が「ナイス!」と言っています。
つちのこ
別れの予感を散りばめた九編の物語は、どれをとっても切なさが長く尾を引く。気に入った映画の印象に残った一コマを、何度も繰り返し観たくなるような余韻が残るのだ。『朗読者』で魅せた、少年と母親のような年上女性との恋に、そんな設定はありえない…と思っていたのが、ここでは71才老人と33才の女性や、義理の父親と娘といったアンバランスな関係がそれほどの違和感もなく物語を紡いでいく。「過去を折り紙の船のように運河に浮かべて流してしまえるのではないか」こんな美しい文章に出会えただけでも、読んだ価値があったと思う。
が「ナイス!」と言っています。
つちのこ
改行が少なく読みづらいが、小説といえども知らない世界の話だけに興味深くページを進めることができた。現代のフランスのジプシーは、自由移動権を持ち、社会保障、教育も少しづつ充実してきているようだ。定職があり定住する人々も多いが、本書に出てくる、キャンピングカーで移動を繰り返す、大家族の放浪民もいる。私がもっていたジプシー像はまさにこのタイプ。確かに、偏見と差別にさらされる極貧の暮らしは悲惨であるが、そこには中心的な存在である老婆アンジェリーヌと、強い絆で結ばれた家族たちの存在がある。人としての尊厳を重んじ、⇒
つちのこ
2023/07/03 17:32

⇒「尊敬する人は、人からも尊敬される」というジプシーの言い伝えは心に響く。図書館員エステールの読み聞かせにより、どんどん変わっていく子供たちの姿に、「本というものは、寝るところやナイフとフォークと同じくらい生活に必要不可欠」という彼女の考えに、いたく感動せずにはいられない。アンジェリーヌとエステールがナナチスの迫害にあった犠牲者の系譜で、二人の信頼関係を強くする要素となったことも見逃せない。

が「ナイス!」と言っています。
つちのこ
墓地に眠る29人の死者たちの語らいやつぶやきは、一見バラバラのようでそうではない。それぞれが個性をもちながらも緩やかにかろうじてつながっていくパズルの一片だ。緻密にできた立体パズルが組み上がると、オーストリアのどこかにある町パウルシュタットの全貌が見えてくる。ケルナー広場やレクレーションセンター、焼けた教会、商店や酒場が軒を並べるマルクト通り。死者たちはかつてそこに住まう人々であり、ほんの一瞬でも吐息のような輝きを放っていた。計算された構成力と息遣いまでが聞こえてくる描写力は、見事というほかない。
が「ナイス!」と言っています。

ユーザーデータ

読書データ

プロフィール

登録日
2020/05/03(2057日経過)
記録初日
1986/01/19(14580日経過)
読んだ本
3320冊(1日平均0.23冊)
読んだページ
1019528ページ(1日平均69ページ)
感想・レビュー
3151件(投稿率94.9%)
本棚
30棚
性別
現住所
岐阜県
URL/ブログ
https://tsuchinoko2006.blog.fc2.com/
自己紹介

早期リタイアし、念願の晴読曇読雨読パラダイスに突入。
旅に生き、好きな本を、好きなときに、好きなだけ読む暮らしをさせてもらっています。
飛ばし読み、流し読み、斜め読みは性に合わないので、本は一字一句最後まで読み切るタイプです。
なので、駄本に気づいて後悔することしきり。
近年はノンフィクションが多くなっています。
博覧強記を目指しているわけではありませんが、未知のジャンルの作品に出会うことが無上の喜びです。
読書以外の趣味は登山、歩き旅、昭和レトロを探す町歩き、B級グルメ食べ歩きです(歩くことが好きなんですよ)。

消え去りゆくホーロー看板がある風景を訪ねて、全国を旅した記録を発信するサイトを作っています。
◆ホーロー看板探検隊が行く
https://horotankentai.sakura.ne.jp/

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