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2024年11月の読書メーターまとめ

馬咲
読んだ本
6
読んだページ
1864ページ
感想・レビュー
5
ナイス
60ナイス

2024年11月に読んだ本
6

2024年11月にナイスが最も多かった感想・レビュー

馬咲
著者も中間報告と言うように、本書は真実をドンと明示するといったものではない。新たに秘密指定が解除された米国の公文書から得られた事実を加味して事件の内容を整理し、今も日本で根強く流布されている「真相(田中角栄はアメリカの虎の尾を踏んだ)」の確度について考察しつつ、今後の日米関係を考える際の教訓を抽出しようとしている。田中の言動に関するキッシンジャーらの皮肉から、米国が田中に不信感を持っていたのは確かだが、原因が彼の外交方針自体(日中国交=台湾断交や独自の資源獲得外交)にあったとする根拠は弱いことが分かる。
馬咲
2024/11/05 18:30

見えてくるのは、「虎の尾」説の真偽とは別に、米国の「虎の尾」を警戒する日本の政治家の習性。真相究明を掲げた三木政権の裏で事態のもみ消しを米国側に要請していた中曽根と、彼の政権時の対米前傾姿勢が否応にも重なる。ロッキード事件の「秘密」から日米が受けるダメージには明確に非対称性があった。露見時に自国民に向けて正当化困難な秘密を作ることは、それを共有する相手に「弱み」を握らせることになる。著者は、日本の政治家の、米国への畏怖を自作したに等しい迂闊さを特に問題視する。それが今日克服されているか甚だ怪しいからだ。

が「ナイス!」と言っています。

2024年11月の感想・レビュー一覧
5

馬咲
生い立ちを含め私的エピソードを伝える資料は少ないシェイクスピアだが、本書は当時のイングランドの各社会階層の演劇文化との関わり方、役者の社会的地位や劇団活動のあり方等を手がかりに、彼が吸っていた現場の空気の再現を通して彼の生涯を辿る。当初の役者は職業人とは見なされない乞食同然の扱いだったが、エリザベス女王による劇団保護以来、急速に地位が高まった。そんな成り上がりの役者達を公然と見下す、局外の大学出エリート作家から台本を買い取るのが一般的だったなかで、自ら役者もやる座付き作家という彼の立場は珍しかったという。
馬咲
2024/11/26 18:33

本書の白眉は、シェイクスピアが所属した劇団・劇場のあり方についての叙述。そこは文芸的共同体というだけでなく、メンバーの共同出資によって成り立つ経営共同体でもあり、劇の芸術的成果のみならず、その自律的な運営形態の点でも同時代の他の劇団とは一線を画していた。それは得難い理想的な劇団像であり、こうした環境で物心両面で役者達と強い連帯感を育めたことが彼の創作にもたらした好影響は計り知れないことを、自身も劇場人である著者は熱い筆致で伝えてくる。巨匠の実像に近づけたとともに、こちらの胸も熱くなった。

が「ナイス!」と言っています。
馬咲
執筆動機は学生運動直後の東大での対話形成の苦労にあったという。エラスムスの理想的ユマニスト像のベースが、モアが代表する英国人文主義者の「世論」に動じず「コモンセンス」を重んじる姿にあること、『痴愚神礼賛』には鋭い人間批評とともに、「愚かしさ」への温かい理解と共感があるといった指摘が興味深い。彼の「寛容」は古典が伝える人間性への共感と、聖書校訂のような学術的キャリアに基づく。多くの写本の比較検討から真正の文章を確定する作業が、人間理性の限界の認識、多様な理性との連帯の必要性、相対的真理の尊重等を彼に教えた。
馬咲
2024/11/21 10:00

宗教的にも国家的にもあらゆる党派的な活動には与せず、闘争の危機の接近を察するたび移住を繰り返したエラスムスは、同時代の人々からはいずれの党派を支持するのか立場を明確にしないことを糾弾され、後世の歴史家からは「逃避的人生」、「臆病者」と評されもした。しかし、終わりの見えない争いの時代にあっても国家や宗派の境界を越えた「世界市民」であろうとし、理性的な言葉(彼は「共通言語」としてのラテン語に終始情熱を傾けていた)による繋がりをあくまで求め続けたところに、彼の確固たる「闘い」があった。

が「ナイス!」と言っています。
馬咲
江戸時代の「知の作られ方/伝え方」の考察を通して、近代的学校教育の限界やデジタルメディアの席巻が学習に及ぼす弊害に光を当てる、独特な江戸思想史。当時の思想家達の知的基盤である四書五経の素読は、自己を「型にはめる」学習法であるにも拘わらず、彼らはやがて別々の問題意識を培い、それに答える個性的な思想を展開できた。本書はその要因として彼らの「学びの場(どんな環境を通して知識を獲得し、どんな人々に向け発信したか)」の差異に着目し、その様々な有り様を、理念上は「個性重視」である近代的学校教育の閉鎖性と対置している。
馬咲
2024/11/17 18:07

デジタルメディアの浸透によって、「近代の知」を伝えるメディアだった学校教育のあり方も変わらざるを得ない状況にあるという。その通りと思うが、「知の身体化」が模範解答かは疑問が残る。かつての四書五経は揺るがぬ普遍的価値を持っており、その知の身体化こそが、世界に向け開かれつつ揺るぎ無い自己を形成すると考えられた。しかし現代でそのような身体化に応えうる「知」とは何か?そこが曖昧だと毒をもって毒を制す、に陥りかねない。知の身体化を乱雑な知への共感の誘惑で溢れるデジタル社会の処方箋とするには、まだ課題が多そうだ。

が「ナイス!」と言っています。
馬咲
西欧世界規模のマクロな変化も参照しつつ、中世イベリア半島の歴史を概説。アンダルスもキリスト教諸国も、各々の領域内のミクロな支配権の攻防が終始存在しており、その打開の為に異教勢力との同盟も繰り返された。宗教的喧伝による結集が成ったのは領域内の力関係が相対的に安定した場合に限られ、さらに外部勢力(ムラービト朝、教皇、南仏、イタリア都市国家等)への依存が強まるにつれ、半島内の利害は国際色を帯びていく。「ムスリム対キリスト教徒」の図式で整理するには、最後のナスル朝陥落に至るまで、対立の様相はあまりに複雑だった。
馬咲
2024/11/11 17:30

お互いに異文化・異教徒(改宗者)への認識、社会的扱いは決して穏当で無かったのは確かだが、飢饉やペスト等で強い社会不安が生じた時期を除けば、全面衝突は稀だったという。征服地の異教徒への信教の自由や自治権の承認の慣例は、寛容の産物ではなく肉体的接触の抑制が目的というのが著者の指摘だが、地域差はあれど、生活空間を接する信徒共同体間の経済的、文化的交流は保たれていた。「レコンキスタ」は、中世の実態よりも、異質な人々に対して隔離や追放といった手段をとるようになった近世以降の態度変化を反映した言葉であるのが分かる。

が「ナイス!」と言っています。
馬咲
著者も中間報告と言うように、本書は真実をドンと明示するといったものではない。新たに秘密指定が解除された米国の公文書から得られた事実を加味して事件の内容を整理し、今も日本で根強く流布されている「真相(田中角栄はアメリカの虎の尾を踏んだ)」の確度について考察しつつ、今後の日米関係を考える際の教訓を抽出しようとしている。田中の言動に関するキッシンジャーらの皮肉から、米国が田中に不信感を持っていたのは確かだが、原因が彼の外交方針自体(日中国交=台湾断交や独自の資源獲得外交)にあったとする根拠は弱いことが分かる。
馬咲
2024/11/05 18:30

見えてくるのは、「虎の尾」説の真偽とは別に、米国の「虎の尾」を警戒する日本の政治家の習性。真相究明を掲げた三木政権の裏で事態のもみ消しを米国側に要請していた中曽根と、彼の政権時の対米前傾姿勢が否応にも重なる。ロッキード事件の「秘密」から日米が受けるダメージには明確に非対称性があった。露見時に自国民に向けて正当化困難な秘密を作ることは、それを共有する相手に「弱み」を握らせることになる。著者は、日本の政治家の、米国への畏怖を自作したに等しい迂闊さを特に問題視する。それが今日克服されているか甚だ怪しいからだ。

が「ナイス!」と言っています。

ユーザーデータ

読書データ

プロフィール

登録日
2021/08/08(1238日経過)
記録初日
2021/08/04(1242日経過)
読んだ本
312冊(1日平均0.25冊)
読んだページ
101886ページ(1日平均82ページ)
感想・レビュー
180件(投稿率57.7%)
本棚
3棚
性別
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