これこそ小説。読んで純粋に楽しい気持ちになる本はそうそう無い。

これこそ小説。読んで純粋に楽しい気持ちになる本はそうそう無い。

1980年代に刊行された純文学。俗的な女性として描かれる若夫人に対し、「向こう側」に接近する老人と霧子、両側を繋ぐ家政婦。構造が対称的でこの屋敷は自己完結した世界だと思う。この小説は主人公の成長小説というよりも、主人公が外側の世界から来たアブノーマリティとして、屋敷に影響をもたらす様子が視覚的に描かれている。読者はこの主人公の横で変化を追体験させられるが、この意図は何だろう？あるいは意図はなく、純文学は芸術性を表現できれば存在意義を達成できるのか？

性的倒錯、性に求める精神的充足、オエディウス・コンプレックスの本。解説が興味深かった。1967年から今日まで共通する価値観もあれば、リベラル的な性別をアイデンティティとして扱う動きなど、思いがけない方向に進んだ一面もあって、世界は面白い。