
「現実の社会で、本気で理想を追い求めようとすれば、必ず社会と衝突する。大抵、自分の思うようにはいかず、連戦連敗の日々を送ることになるだろう。それでも、挑戦し続けるのが、建築家という生き方だ。あきらめずに、精一杯走り続けていけば、いつかきっと光が見えてくる。その可能性を信じる心の強さ、忍耐力こそが、建築家に最も必要な資質だ」
「何を人生の幸福と考えるか、考えは人それぞれでいいだろう。 私は、人間にとって本当の幸せは、光の下にいることではないと思う。その光を遠く見据えて、それに向かって懸命に走っている、無我夢中の時間の中にこそ、人生の充実があると思う。」
リオタールやシュミットの話がしたいなら、適切な題材を選んでアカデミアの範囲で行うべきだろう。カウンターカルチャーはもっと自由なものであるべきで、そこに権威の構造を持ち込んだ時点で(外部から見れば)それは人文系のアカデミアごっこと区別がつかない。ともあれ分かったのが、今後自分がこの手の本を読むということはないだろうということだった。
もう一つ思ったのが、カズオ・イシグロは人物描写が抜群に上手いということだった。例えるならサマセット・モームが一番近いかもしれない。人間は欠点のある生き物なので、時として合理的な判断ができない。しかしその不合理な部分こそが人間の最も人間的な部分でもある。彼はそうしたものを描くのが非常に上手い作家だと感じた。
何よりも最後の謝辞が良かった。友人や家族、恩師に感謝を述べる至って普通の謝辞なのだが、回想録を読んだ後に見ると、孤独だったヴァンス少年が最後には多くの大切な人に巡り会えたように見えて、僕は少し泣いてしまった。やはり家族的な繋がりこそ、人間にとって真に価値のあるものなのではないか。
ピンチョンは明らかに天才で、なんでも書くことができたから世界について書こうとしたのだが、人間の内面について書こうとはしなかった。彼にとっては(それがどういう意味であれ)目に見えるものが全てだったのだろうか。
moralist
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