四〇七首の式子内親王の御歌を書き写した。美しく繊細なだけではなく激しさや気高さ、自然や他者に対しての大きな愛を持っていた方だと思う。最後の方は、腕が勝手に動くような書写となった。いつもバッハを聴きながら写していた。マタイ受難曲もよかったけれどもヤープ・テル・リンデンのフルートソナタが一番相性がよかった。写しながらこの方は聴覚優位だとも思った。定家は多分視覚優位だと思う。二〇〇首以降の御歌が殊に冴え渡り、苦しいけれども自分のためになる模写だった気がする。「しづかなる暁ごとに見渡せばまだ深き夜の夢ぞかなしき」

地響きのように恐ろしい、けれども、琥珀色の秘密のように美しい詩集。パレスチナへの巡礼と、源氏物語を巡る心の旅とが、同等の質量を以て霧の底に沈んでいく。アラブの砂漠の残酷が優雅な源氏物語の時代に溶けて、読者たちを未知の世界へ連れていく。古いのに新しい世界、野蛮なのに繊細な世界が詩人の力強さとあえかさを映し出す。それは時代遅れの万華鏡。それは時季遅れの雲雀のさえずり。両極に存在するはずのものが時空を超えて絡まり会う。紫色のスカーフが風の中に溶けて消えていく。夜の匂ひが揺蕩うような美しくて苛酷な世界観。

四〇七首の式子内親王の御歌を書き写した。美しく繊細なだけではなく激しさや気高さ、自然や他者に対しての大きな愛を持っていた方だと思う。最後の方は、腕が勝手に動くような書写となった。いつもバッハを聴きながら写していた。マタイ受難曲もよかったけれどもヤープ・テル・リンデンのフルートソナタが一番相性がよかった。写しながらこの方は聴覚優位だとも思った。定家は多分視覚優位だと思う。二〇〇首以降の御歌が殊に冴え渡り、苦しいけれども自分のためになる模写だった気がする。「しづかなる暁ごとに見渡せばまだ深き夜の夢ぞかなしき」

執筆のために読了。

読書会のために読了。二条院が完成し、花散里が移り住む。明石の姫君が三歳になり源氏は母親と一緒に引き取ろうとする……。短いけれどもしみじみとした情感溢れる一帖である。身分の低さゆえ都に上るのをためらう明石の方の切なさ。娘を将来の后として育てたい源氏。結局明石の方は娘と共に京の外れの大堰川の近くに住むことになる。源氏は出来るだけ渡って行こうとするが、それも少なく、紫の上に姫を育てることを頼む。明石の方はそれを知っていたから、上京することに怯えていたのだろう。

再読。この小説は二度目の方が面白いと思う。あるいは作者の他の作品も読んで、作者が脚本を書いた『去年、マリエンバートで』を観てから。時間が過去と現在を行き来し未来は存在しない。そういう意味ではこの小説はアンチ・プルーストとも言えるだろう。ロブ=グリエは時間を曖昧にしたまま、あらすじを分解して人間の意識をばらばらにする。意識の流れに対抗して揺らぎを極端に無視する。この小説にはリアルな人間など存在しない。物語をパズルのように分解し、読者たちを驚かす結末に連れて行くのである。