TVはいつも拝見していますが、本を読むのは本著が初です。大河ドラマ「光る君へ」を見ていて、ドラマの中ではちょくちょく解説や現代語訳無しに原文で和歌や手紙が読まれるので、この手の本が読みたくなってしまった。で、非常に明快でした。更に、紫式部と和泉式部との対比の章もあり、大河ドラマの伴奏本として最適！私は、清少納言、紫式部、和泉式部、三人の中ではどのタイプかしらなどど不遜な妄想も楽しめます。これを読めば分かる、「枕草子」はやっぱり名著です。「何を今更」と日本中からツッコミされますね。

介護付き高級分譲マンション「レジデンス悠々」を舞台にした連作短編集。やがて老いる自分のことを棚にあげて言ってしまえば、老人の戯言満載で嫌な話は多けれど、面白く読了。原宏一さんの作品は「ヤッさん」シリーズばかり読んでましたが、久々に別の話を読ませてもらいました。自分はこういう年寄りになりたいと思っていても体の衰えや認知症を始めとした老いに逆らえぬ諸々と付き合わざるおえない自分にとっては近未来。見せつけてもらったような気がします。

暗い引力に寄せられた短編集。どの話も一癖も二癖もあり、予想を上回る展開に、嫌な気持ちになりながら読む手を止めることができない。「極楽」は認知症のフリをする主人公のラストに怖気が走った。唯一「蟻の牙」がスカッと系かと思わせておいて、唯、裏返した時に「蟻」は自分であり、無責任に他者を貶める点においては「蟻」自身もまた「蟻の牙」で滅びるのではないかと暗い引力に呑み込まれそうになった。岩井圭也作品の凄みを堪能しました。

2020年からつい最近までの、マスクをするのが普通、飲み会は制限され、「密」を避けることがマナーとされた時期を舞台にした短編集。いろいろなことがあって、あれは一体なんだったの、と、思うことも多い。でも、コロナ自体は終息なんかしていなくって、罹患者の人数は絶対に緊急事態宣言の頃より多いよね、と、自分の周囲の感染状況をみて思う。パンデミックの中での罪、異常な状態の中で炙り出される人の本性。善い人も悪い人も登場。どれも面白かったけど、私は「特別縁故者」が好き。

POPを書いたら日本一のカリスマ書店員のいる店に、編集者から持ち込まれた「時をかける色彩」という写真集。第二次世界大戦の頃のモノクロの写真をAIや人の手で修正しカラー化したそれは、白黒写真では感じられなかった空気や匂いを見せる。この本を軸にした連作短編集。各短編の最後には、モノクロだった時の物語が姿を現す。読んでいて、何度も胸が苦しくなった、何度も自分と向き合わされた、涙も出た、嫌な気持ちにもなった、でも「戦争をするな」と言い続ければ「誰かが助かるのかも」しれないと思った。アラカンの私でも遅くないかのな。

本作が著者初作品とのこと。滋賀医科大学生母親殺害事件について、著者が加害者に取材を尽くしたノンフィクション。教育虐待に苦しむ人たち、心を壊される前に本作を届け、救いたいという著者の祈りを感じる。１審での裁判長の言葉に、自分が理解されるのだということを悟った加害者。家族内のことは外には分かりにくいとはいえ、この先、このような事件が起こらないでほしいと願う。

道警・大通警察署シリーズ11。闇バイトで集められた四人が起こした強盗事件をきっかけに、置き引き事件やスマホのひったくり、ボロ作業車の寸借事件、指示役や詐欺常習の女のアレコレが、道警の各部署でバラバラと起き、道警シリーズのお馴染みの面々、佐伯、小島、津久井の捜査が「点」となって進んでいく。読んでるほうは、この「点」が「線」で繋がることが分かっているので、途中はちょっとイライラしてしまう。そして、「警官の酒場」ジャズバー、ブラック・バードはこの後どうなるのか、余韻を残して終了。

切なさと痛みと哀しさの静謐な心の深淵を傷をテーマに描いた１０の短編集。目に見える傷、見えない傷、どちらも もっている者は忘れられない刻と共にその傷と過ごしてきた。その時間と今の感情を描いた本作。陳腐な言い方しかできないけど、いい読書時間を過ごせた極上の作品群でした。

2014年　サッポロ生ビール黒ラベルのCM　妻夫木聡との対談集。面白かったけれど、令和の今読むと「男ってのは…」的な発言や、女性排除的な楽しみ方には不快感。この10年で考え方が少しずつ改善されてきたので、仕方ないかなと、そこはおおらかに捉え、この対談に登場している人たちが、今も同じ発言をするわけではないだろうと思い、信じて読了。

中高年の引き籠り問題をテーマにした連作ミステリー。解剖してはじめて真実が分かるという「ヒポクラテス」シリーズを利用した…という感じでした。同じ地域に同じような事件が多発する違和感を感じながら、さすが中山さん、最後に違和感を回収。事件の一つ一つは、何が悪かったのか、どこで歯車が狂ったのか、痛みの残る内容でした。