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2024年5月の読書メーターまとめ

belier
読んだ本
18
読んだページ
5467ページ
感想・レビュー
12
ナイス
67ナイス

2024年5月に読んだ本
18

2024年5月にナイスが最も多かった感想・レビュー

belier
路線バスに乗ってデパートに出かけるという、ありふれた日常から始まり、やがて幻想的なチェスの話になる。小説の方向を見極められず、文体のゆったりしたリズムも手伝って、前半はページを繰る手が遅かった。小説の世界に入った後は、先を急ぎすぎるぐらいに読み進めた。冒頭の現実的な導入にかかわらず、架空の世界を構築する作家の創造力と、描写力を楽しむ作品だったといえる。チェスのことはまったくわからないが、たくみな比喩で納得感があった。老嬢や婦長など魅力的なわき役たちもよかった。ラストはそう来るのかという感じだった。
が「ナイス!」と言っています。

2024年5月の感想・レビュー一覧
12

belier
122篇の掌編小説。「伊豆の踊子」の原形だけでなく、変奏曲かと思われる作品もある。冷笑的な視点もあれば、心温まる世界もなくはない。戦中には、古い文化的な日本を懐古しているようだ。もっとも、小川洋子が書いているように、辻褄のあわない、謎の残る作品が多いし、なぜを問うても無駄だろう。読者がそれぞれ気に入った作品を味わい、さらには物語を自分で膨らませるといいのかもしれない。「夏の靴」の不思議な少女は、感化院を出れずに亡くなった女の子の霊かもしれないとか。最後の「めずらしい人」は、現実にありそうでおそろしい話だ。
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belier
再読。『鼠三部作』後の、村上が専業小説家として軌道に乗り始めた頃の短編集、どれも面白いし、懐かしかった。「めくらやなぎと眠る女」は短いバージョンが別にあるので、あらためて意識して読み比べて見たが、すっきりさせて読みやすくしただけでなく、かなり変更もされていた。変更後は「蛍」「ノルウェイの森」とのつながりを強めている。3作品は連なる作品群ということなのだろうが、わざわざ変更を加えたというのは、この作品には強い思い入れがあるのではと想像する。その最初のバージョンを読める短編集という点でもよかった。
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belier
ラジオで著者の話を何度か聞いていて、この考え自体は実は馴染みあるものではないかと思っていた。後半にエラスムスやモンテーニュなど、寛容を説いたユマニストの話が出てきて、嬉しくなると同時にやはりそうだったかという感じだ。この言葉を言い出したキーツや、後に広めた精神科医ビオンの人生などは新しく知って、学びはあった。ただ「答えの出ない事態に耐える力」なのだし、この本を読んだからといって、すぐに特別な能力がつくものではない。過去の戦争の話もあるが、現代でも世界各国の指導者にこそ強く求められる「力」だと思う。
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belier
才能ある若者がハンセン病で隔離され、作家となり夭折するまで書き綴った小説、随筆、日記などの作品集。戦後に治療薬が普及する前のこの病気の状況は凄まじい。自分の運命を悲嘆しながらも、自身の心理と、周りの人たちをよく観察し、優れた文章で表現した。後に大江健三郎の「死者の奢り」を高く評価し、本人も視覚的な描写の名人だった川端康成が才能を認めたのも頷ける。また川端が北條の後押しをずっと続けたのは立派だった。それにしても、戦後は治療薬が普及したにもかかわらず、ここに書かれた人権軽視の状況が続いたことは情けない限りだ。
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「権力はみずからの嘘にとらわれており、そのため、すべてを偽造しなければならない。過去を偽造する。現在を偽造し、未来を偽造する。統計資料を偽造する。」78年のチェコスロバキアで書かれた文章だが、現在の日本でも通じる。「ディシデント」という言葉が独特の意味合いで使われている。体制転覆を目指すのではなく、見せかけだけでも整った法制があるから、それを逆手にとって、権力者に圧しつけられた「嘘の生」を、市民の力で「真実の生」に変えよう、という呼びかけだと自分は読んだ。だとしたら、この考えも現代において通じると思う。
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読後、残念で悲しい思いが残る。是枝はあとがきで書いている。山内豊徳は高級官僚として加害者側であったし、同時に時代の被害者であった。ふたつのベクトルに引き裂かれていた。もう一つの矛盾、理想主義が現実主義に打ち負かされた結果でもある。この本と別の話だが、水俣病被害者の緒方正人は「チッソは私であった」と、やはり矛盾に苦しんだあげく、深い精神性を獲得した。そんな逞しさがエリートの山内には欠けていたと思う。自死の数日前、伝道の書12の冒頭の話を妻にしているが、後半の「すべては空しい」の思いだったのではなかろうか。
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belier
「女も男と同じごと仕事しよった」という認識が炭鉱で働く女性にはあった。それに女しか家事や子育てをやらなかったいう。女坑夫たちは、たしかに資本側のひどい搾取に喘いでいたが、男と同等以上に働いているという誇りをもって生きていたのだ。思うに、女性は家庭を守る、職場では補助的な仕事につくという、戦後の限られた環境下において女性の意識について語られてきたのは、間違いだったのではないだろうか。最近よく言われるが、「女性ならではの感性」などステレオタイプにすぎない、というのがよくわかる。期待以上の良書だった。
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路線バスに乗ってデパートに出かけるという、ありふれた日常から始まり、やがて幻想的なチェスの話になる。小説の方向を見極められず、文体のゆったりしたリズムも手伝って、前半はページを繰る手が遅かった。小説の世界に入った後は、先を急ぎすぎるぐらいに読み進めた。冒頭の現実的な導入にかかわらず、架空の世界を構築する作家の創造力と、描写力を楽しむ作品だったといえる。チェスのことはまったくわからないが、たくみな比喩で納得感があった。老嬢や婦長など魅力的なわき役たちもよかった。ラストはそう来るのかという感じだった。
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撃沈された沖縄の学童疎開船の悲劇。学童の疎開案が国から現場におろされ、引率教師とともに乗船し、撃沈され、漂流する。一連の流れを関係者の様々な視点で伝える。撃沈のさいの臨場感は圧巻。沈没後の漂流は証言形式で語られる。宮城啓子の話がすごい。当時9歳の女の子の生命力、知恵に感嘆した。普通では耐えがたい悲惨な状況も、利己的な大人の行為も、自分自身の心理もよく観察している。学童800余名中、生き残ったのは50余名。家族の心配をよそに、事件について箝口令をしくなど、疎開決定時から、国家のエゴも浮き彫りになっている。
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belier
取り壊された旧宅から発見された、二十歳頃に書いた小説第一作となる『不知火おとめ』。この作品に限らないが、初期の作品群は後の作品群と世界観の違いが顕著で、その理由が気になるところ。あとがきで、自身が「露悪的すぎたり感傷的すぎたり」と書いているが、後期の石牟礼らしい作品より、ずっと近代文学的で私小説の風味がある。しかし作風は違っていても、やはり上質の文章で、天分の才能が発揮されていると思う。二十歳で書いて、未完成でどこにも発表せず、自宅に眠らせていた習作が、すでにこのレベルだったのだ、と理解できた。
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belier
福田恆存訳で読んだのはかなり前。いま読むと、キャリバンの扱いはまずいと思ったら、やはり先住民を悪者とすることへの批判はかなりなされているらしい。訳注によるとシェイクピアは、ブラジルの先住民に敬意を払ったモンテーニュのエセーに影響を受けていたらしいが、肝心なところを学んでないのは残念。沙翁も時代の制約からは逃れられなかったということだろう。あと思ったのは、多神教的雰囲気が濃厚なこと。当時の英国はカトリックとプロテスタントが激しく対立していたと思うが、双方から隔絶した劇世界を創造し、許されたのも面白い。
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belier
この作品はこれまで多くの翻訳がでているため、先人の訳や解釈のいいとこどりがされていると思う。また、訳者は新しいことをいろいろ試みていると、あとがきであかしている。一番感心したのは、ヘミングウェイに特徴的な、等位接続詞でつないで長くなっている原文を、できるだけ忠実に訳そうとしていること。語順が英日は逆のため至難の業と思うが、ベテランの技によって、かなりこなれた文章になっている。短文でつなぐ訳文と比べたら、リズムが悪いと感じるかもしれないが、原文とつきあわせて読むと、こちらの方が原文に近いと思える訳だ。
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ユーザーデータ

読書データ

プロフィール

登録日
2013/03/23(4113日経過)
記録初日
2013/03/05(4131日経過)
読んだ本
1865冊(1日平均0.45冊)
読んだページ
564008ページ(1日平均136ページ)
感想・レビュー
1007件(投稿率54.0%)
本棚
0棚
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