≪2025年の読書の主なもの≫
◎小説以外から。吉見義明『草の根のファシズム‐日本民衆の戦争体験』(岩波現代文庫)。民衆の視点から戦争体験を捉えることこそ戦争のない世界の実現につながるに違いないと思う。もうひとつ、再読だが、塩野七生『ローマ亡き後の地中海世界』(新潮文庫)。キリスト界VSイスラム界の攻防が描かれているが、一枚板になろうとしないキリスト界の国々が現代の国際政治にも通じていると思った。
◎日本の小説から。吉村昭『羆嵐』(新潮文庫)。吉村昭の丹念な描写がリアルな迫力を生んでいる。文字どおり、嵐の中にいるようだった。
◎海外の小説から。マリオ・バルガス=リョサの作品を9冊読了。2010年のノーベル賞授与理由が「権力の構造の地図を描く力と、個人の抵抗や反抗、挫折についての鋭い描写」とされているが、納得である。『都会と犬ども』『緑の家』『ラ・カテドラルでの対話』『世界終末戦争』『密林の語り部』『アンデスのリトゥ‐マ』『チボの狂宴』『楽園への道』『ケルト人の夢』、どれも読みがいがあった。一冊を選ぶことはできない。未読の作品も読みたい。
«2024年の読書の主なもの»
◎小説以外から。川名晋史『在日米軍基地‐米軍と国連軍、「2つの顔」の80年史』(中公新書)。ウクライナやパレスチナ関連の本を何冊か読んだが、それでは我が国はどうなっているのかということに目を向けることも大切と思い手に取った。在日米軍基地について新たに知ることが多く有意義だった。
◎日本の小説から。市川沙央『ハンチバック』(文藝春秋)。読んだ日本の作品は少なかったが、本書は攻撃的で刺激的だった。挑戦的でもあって、それでこそ小説だと思う。
◎海外小説から。ウィリアム・フォークナー『野生の棕櫚』(加島祥造訳、中公文庫)。折に触れて一冊でも多く読みたいと思っているフォークナー。本作は、ふたつの小説が交互に描かれ、その螺旋構造が1+1を遥かに超えたものを読む者の胸の内に響かせる。小説を堪能したという気持ちになった。フォークナーが伝えようとしたことのどれほどを受け止めることができたかは、別にしても。もう一冊。アガサ・クリスティー『カーテン』(田口俊樹訳、ハヤカワ文庫)。ポアロ・シリーズ最終巻。『カーテン』を読むために32冊の長編ポアロを読んできたかのように思えた。人間心理や人間社会がミステリーとすれば、まさにミステリーの傑作(もちろん、私の感想)! 読書中のマープル・シリーズは残り三冊。最後に何が待っているのか、楽しみである。
≪2023年の読書の主なもの≫
◎小説以外から。スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ『セカンドハンドの時代‐「赤い国」を生きた人びと』(松本妙子訳、岩波書店)。ソ連崩壊前後以後を生きた人びとの証言を20年の歳月を費やして集めた。「普通の人びと」がどれほどの苦難の中で生きてきたか、これほど胸に迫って伝わってくる本はあまりないと思う。
◎日本の小説から。村上龍をいくつか読んだけど、再読なので除外すると、あまり日本の小説を読まなかったが、吉村昭には手が伸びていた。『戦艦武蔵』(新潮文庫)を選んでおきたい。どこかで敗北を予感しながら、巨大な戦艦を日本は造った。戦艦が造られていく様子の詳細さは国の滅びも辞せぬ狂気が伝わってくるようだった。
◎海外小説から。ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』(上田真而子、佐藤真理子訳、岩波書店)。以前、映画を見たことがあり、それで満足していたのだが、私が見た映画は原作の前半を扱ったものだった。何歳になっても忘れてはならないことが後半で展開されていた。読んでよかった。
≪2022年の読書の主なもの≫
◎小説以外から。ゼ―バルト『空襲と文学』(鈴木仁子訳、白水社)。第二次世界大戦でのイギリス空軍による無差別絨毯爆撃。爆撃による人々の苦しみの真実を伝える文学の意義。アメリカがいくつもの戦争で行った無差別殺戮を検証する『戦争の文化』(ジョン・W・ダワー、三浦陽一監訳他、岩波書店)とともに大国の帝国的差別的攻撃を考えさせられた。
◎日本の小説から。『世阿弥 最期の花』(藤沢周、河出書房新社)。佐渡ヶ島に島流しされた世阿弥。島の人々が彼と共にひとつの能の舞いを作り上げる。世阿弥が天空に舞うかのような藤沢周の描写の冴え。感動した。
◎海外小説から。翻訳本も原書も読んだ『クララとお日さま』(土屋政雄訳、早川書房)& “KLARA AND THE SUN” (faber)。観察したことから学
び考えるクララ。『恋するアダム』(イアン・マキューアン、松村潔訳、新潮社)(原題:MACHINES LIKE ME)のアダムはインターネットを通じてあらゆる情報から学ぶ。アダムは限定生産のうちの一台。人間のあらゆることを学ぶということは人間の矛盾も学ぶということなのだろう。矛盾に耐えられないからか生産されたアンドロイドの半数ほどが自らシャット・ダウンする。太陽をまっすぐな心で信じるクララと好対照。AIロボットを生かすも殺すも、人間がどう生きるのかにかかっているのかもしれない。
《2021年の読書の主なもの》
◎日本の小説は二人の作家を中心に読んだ。夏目漱石の全小説再読、遠藤周作の所有本を再読。充実の読書だった。
◎エミリー・ブロンテ『嵐が丘』がこのような作品だとは想像していなかった。一気読み。シェイクスピアの戯曲は永遠のmasterpiece。コルソン・
ホワイトヘッド『地下鉄道』は小説的想像力によって構築した希望。ジャック・ロンドン『火を熾す』、また読みたい。
◎再読であったが、ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて 増補版‐第二次世界大戦後の日本人』で、日本人として知っておくべき日本の姿を改めて見せてもらった。
◎池澤夏樹が時間をかけて訳出した話題の詩集『カヴァフィス全詩』、古代の歴史に人生を読み込んだ詩に感銘を受けた。
《2020年の読書の主なもの》
◎漱石の俳句、文学論、評論、安部公房の小説を読む。安部公房の『方舟さくら丸』は傑作だと思う。
◎フォークナーの土地と人間の深い結び付きと人間が生きることの生々しさに感銘。特に『八月の光』。
◎小説以外では、宮本ゆき『なぜ原爆が悪ではないのか アメリカの核意識』は教えられること多かった。
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