著者は言う。「自炊は自尊心を高める行為だ」と。 本書の特異点は単なる料理本ではなく(レシピはあるが6ページしかない!)受講者との対話に多くのページを割いている点だろう。それはあたかもセラピーのよう(精神科医が同席している)。そのため自己啓発本の側面も強く、読み手を選ぶ本であることは書いておいた方がいいだろう。 そもそも、私は一人暮らしで節約のために料理をしているので「自分のために料理ができない」って概念が理解できず、自分とはまったく異質であるがゆえに、より興味深く読めたのかもしれないな。
ボーナストラックとしてお笑い芸人「米粒写経」のサンキュータツオとの対談を収録。本編では意図的に触れられなかったバディ=BLとの差異、(どちらも大学で教えているので)深い交わりを嫌う最近の若者にとってのバディはもはや幻想ではないかという指摘、また芸人ならではのお笑いコンビは夫婦に近いという実感など、本編の補完として最適。 ただし『進撃の巨人』の壮絶ネタバレを食らうので未読の方は要注意!
本書は、こうした映画の技術的な側面(ほかには音響なども)を漫画を交えて平易に解説。著者の本業は書籍の編集者で映画の専門家ではないらしいが、それがかえって初歩の初歩、基本のキからの丁寧なレクチャーにつながっている。図版も多く、見た目にも分かりやすい。 漫画担当のゆめの氏は実際に映画館に勤めていたらしく、映画館で働き、先輩や常連客から映画の講義を受ける主人公の女性は、おそらく彼女の投影だろう。
私は(最下層の人間なのでw)映画館には久しく訪れてないが、そんな人間でも映画館のスクリーン&音響で映画を浴びる快楽を思い出させ、久々に重い腰を上げてシネコンに足を運ぼうか、そんな気にさせる好著だ。
中でも今、介護をしている現役世代が将来、介護保険の恩恵を受けることができるのかという不安を描いた「第6章 自分の老後が不安です」は必読だろう。 ニコ・ニコルソンは「親しみやすい画風」にだけ注目されがちだが、その実、表現力/訴求力がハンパない。エッセイマンガとして最高峰と言っていい。 前作同様、本書も「現代人の必読書!」 だと言い切りたい。
興を削ぐので詳しくは書かないが、ハルキストのみならず、アンチにとっても驚愕の一冊。なにしろ、聞き手の川上は「年表はもちろん社会的出来事との相関図」など周到に準備したが、「常識的な読みのようなものが、村上さんと小説について話すにあたって本当に使えなかった」「わたしは今、村上さんの自由さに震えています」とぼやく。 ーー「常識的な読み」が通用しない、村上春樹の唯一無二の創作術とは? 四章構造になっており、一章は『職業としての小説家』について、以降は『騎士団長殺し』について触れているので、その二冊の履修は必須。
本書は校正についての書であり、私自身の生業でもあるのでフラットな視点では読めない部分もあるにはある。それでも最終章は、医薬品の成分表や、生成AIによる校正、そしてDNAの二重らせんが片方の復元(校正)を成している生物そのものが校正しているという指摘など、従来の校正本(校正者自身が校正という仕事を美化するナルシスト本(正直、同御者として反吐がでる))とは一線を画する視点で書かれており、その点は評価したい。
……いろいろと難癖もつけたが、私は秀実さんの本が好きだった。そこに偽りはない。まだまだ未読の本はあり、本書は追悼として読んだわけではない。私は美味しいものは後に残しておくタイプなので、まだ代表作である『弱くても勝てます』は読んでないのだ。まだまだ追悼には早すぎる。『弱くても勝てます』を読むまでは、私にとって秀実さんは現役の作家のままなのだ(ノД`)・゜・。
後半になるにつれ、夢の場面が増え、また日常でもイマジナリーフレンド的に知人を呼び出して会話をしていたことが明かされる。これにより前半部も儀助の妄想だったのではないかという著者の企みが明るみになるが、なにしろ『残像に口紅を』の後なので正直、文章実験としての驚きはかなり弱い。 前半部から擬音が当て字になっており、ラストで型破りなタイポグラフィとして結実するが、それも今さら感が強い(具体的な題名は思い出せないが、この手法は短編でありましたよね)。
「敵」の出現は儀助の日常と妄想の境界の決壊として機能しているが、パソコン通信の書き込みから広がり(パソコン通信は『朝のガスパール』)、北からロシア兵が攻め込んでくる(『歌と饒舌の戦記』)設定は80~90年代の筒井をリアルタイムで読んでいた世代にはなんだかデジャヴ。
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高野秀行の旅としては初のテレビ取材なのも特筆すべき点だろう。普通、テレビ取材はロケーションをするが、今回はぶっつけ本番なのでハプニング続出なのも波瀾万丈で楽しい。TBS系『クレイジージャーニー』ですでに放送済みの内容なのだが、オンエアされた内容は本書の半分にすぎず、その理由も明かされる。 また、日本を出発する前から災難に見舞われるなど『怪魚ウモッカ格闘記』を彷彿とさせるのも愛読者には嬉しいところ。
『謎の独立国家ソマリランド』→『恋するソマリア』、『謎のアジア納豆』→『幻のアフリカ納豆を追え!』など、ここ数年の高野は追加取材で続編が書かれることが多く、本書のエピローグを読むと「できる長女」ことアルマズのガイドで、さらなるディープな「飲酒」取材を期待したい。