芸人である著者だからこそ書ける、お笑いの世界での背中がじりじりと焼けるような焦燥感や羨望。著者の作品を読むのは2作目だけれど、語り口は淡々としているのに感情を揺り動かされるのは共通している。何気ない掛け合いには思わず笑えてしまったし、スパークスの最後の漫才のシーンは涙がこみ上げた。自分の目指すべきところに向かって貪欲に磨きをかけていったという経験を通してしか見えない景色がそこにあるのだろう。

ギミックがおもしろい！最初から最後まで不穏さがじっとりと続き、突然ふっとつき放されるような読後感。内臓が浮くみたいな絶妙な気持ち悪さが残って良かった。電子書籍では味わえないような読書体験をさせてくれる作品が好き。

きっとこの本を読んだときの自身が子供寄りか大人寄りかによって感じる印象が変わってくるのだろうなと思った。私は出産・育児の経験がなく、どちらかといえば近くで無償の愛を注いでくれる親というものの尊さやその存在を渇望する気持ちに心が寄ったが、 そんな子供寄りの自分だからこそ、これからひとりの人間を育てるとなったとき、自信を持って自らの手で育て上げられるだろうかと省みさせられた。大人だからといって大層な人間とは限らないから。それでも、無限の可能性を抱いた子供たちの行先を、大人のエゴで捻じ曲げたくないのも本心。

元来、品田遊もといダ・ヴィンチ・恐山という人をメディアを通してうっすら観察していて、不器用に生きるその姿に、一体どういう思考回路で日々を送っているのだろうと気になってはいた。この本を読んで腑に落ちるところもあったし、意外性も感じた。人に公開する用にチューニングされた思考記録だと分かってはいるけどやはり興味深かった。彼が、人の抱く感情を適切に言語化してくれることで、今まで漠然と胸に抱えていた何かの輪郭をなぞることができた気がする。単なる日記かと思いきや短編小説のようなパートもあり、コラム的要素がおもしろい。