、「わかりあえない」ままでひとつの「社会」を作っていく技法。私は、「他者」といること、「社会」を形成することの少なくともある領域において、このような技法を探すことが必要だと思う。「わかりあわない」と「いっしょにいられない」、「社会」がつくれない、という技法は、私たちの「社会」の可能性を大きく限定する。「理解」は「他者」との「共存」のためのひとつの技法でしかなく、このふたつは別のことなのだ。私たちはときに、他者との「共存」よりも「理解」のほうを目的として設定してしまう。しかし、「理解」できない他者と「社会
」を作る場面はあり、そのとき「理解」に囚われることは、私たちを「共存」できなくさせてしまう。私たちは「理解」を断ち切り、それ以外の「共存」のための技法を開発し始めなければならない。
可能性を断定し、空海はこのおどろくべき体系によってかれの同時代人を驚倒させた。峠のくだり道は空海の故地にちかづいている。もし犬を見ている私が犬に愛欲を感じても犬はよろこんで私の抽象化された愛欲のために子宮に化ってくれるかもしれないという密教に似た妄想あるいは密教そのものの想像をつい覚えるのも、この峠がそうさせる気分かもしれなかった。
まようており こまっており まようて おります(ちのはは)⚫︎せっちんから母の大きな笑い声がした。でも、わたしはその笑い声の前に、母の大きな屁の音がしたのを、ききのがしていなかった。母は何かに、その大きな屁をひっかけ、その姿が、あんまりおかしかったので、あんな大きな声で笑っていたにちがいなかった。屁をひっかけられたものは何か?それは、母以外に、誰れも知らない。(血の遠景)
に日本とのしがらみもアメリカの占領政策とからんで四・三事件をより残酷なものにしている。僕たちは当然、帝国主義日本の植民地統治から解放された戦勝国に準ずる国民であったにもかかわらず、国を分割されたり、思想信条を規制されたり、拘束されたり閉じ込められたりね。民族受難を強いられたのは戦争犯罪国の日本ではなくて、僕たち朝鮮人の方なんだよな。それは日本が天皇陛下のお声ひとつでどうとでもなるという、反共布陣への信頼がそうさせたことなんだ。その裏返しが「朝鮮」の占領政策だった。守旧勢力はこうして復活し、右翼勢力はこう
して米軍政によって作られていった。この勢力は何をしても捕まることはないんだから。捕まるのは決まって民衆の側。そのほとんどが解放させられた人民委員会に関わった人たちで、この人たちがアカとして処断される。だから抗議をし、デモを組んだ。(金時鐘)
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可能性を断定し、空海はこのおどろくべき体系によってかれの同時代人を驚倒させた。峠のくだり道は空海の故地にちかづいている。もし犬を見ている私が犬に愛欲を感じても犬はよろこんで私の抽象化された愛欲のために子宮に化ってくれるかもしれないという密教に似た妄想あるいは密教そのものの想像をつい覚えるのも、この峠がそうさせる気分かもしれなかった。