幼かった幸が大阪に奉公に出てからの長い物語が終わった。過ぎた百年、これからの百年を見据える九代目とその伴侶として。波乱万丈の幸の人生に重なる五十鈴屋の発展の物語。気になっていた結のその後も知られる。激しい不足に苛まれた結もやっと満足を知る心境になれるのが語られていかにも著者らしい。出来事の合間に挟まれる季節の移ろい、商家の習わし、町の様子がしっとりと鮮やかに描き出されるのが快い。事件や筋ばかりを追いかける物が多い最近の時代小説だが、このような文章は読み手をその時代その時にいざなってくれて心地よい。

少年のような風貌、比類なく美しい音を出す若手ピアニストのエッセイ。驚異的多忙さで世界各地のステージに立つ。招かれた音楽祭での演奏家同士、天才同士ならではの交流も描かれ愉しい。自分には数ある演奏会の一つでも聴き手には一生に唯一の機会かもしれないと、曲にこめられた作曲者の心の全てを聴き手に届けようとする。楽曲に対する探究心を怠らない努力と勉学の人。心より出ず、再び心に還らんことをと言ったのはベートーヴェンだったか。まだまだ伸びる瑞々しい若いピアニストに幸いあれ。

ロシアのウクライナ侵攻が始まって3ヶ月後に出版されたウクライナについての2人の歴史学者による講義と対談、エッセイ、質疑応答集。複雑なウクライナの歴史は少しの紙面では語り尽くせない。2人は歴史から学び戦争を避けるように説く。ジーン・シャープの「独裁体制から民主主義へ」を扱ったNHKな番組を思い出す。個人の熱い思いの連携が独裁者を倒すと。成功例はある。しかし、侵攻をうけた側がそれを貫く難しさを思う。2年を超す戦いは果てが見えないし、飛び火するかに戦火が散らばり始めている恐ろしさを如何にしたらよいのか？

幼かった幸が大阪に奉公に出てからの長い物語が終わった。過ぎた百年、これからの百年を見据える九代目とその伴侶として。波乱万丈の幸の人生に重なる五十鈴屋の発展の物語。気になっていた結のその後も知られる。激しい不足に苛まれた結もやっと満足を知る心境になれるのが語られていかにも著者らしい。出来事の合間に挟まれる季節の移ろい、商家の習わし、町の様子がしっとりと鮮やかに描き出されるのが快い。事件や筋ばかりを追いかける物が多い最近の時代小説だが、このような文章は読み手をその時代その時にいざなってくれて心地よい。

今、書店に行けば必ず平積みされ作品が並ぶ著者の極く若い時の作品で剣道と茶道の豊富な知識に驚く。思いがけず若き日の加賀恭一郎と出会った。どんな時代でも大学時代を愉しむ若者の姿は明るく健康で気持のよいもの。この作品に登場する若者達も最終学年に達するまでは歓びに満ち溢れた青春を過ごしていたに違いない。彼等にとって予想もしなかった出来事が起きて、それに引きずられるように仲間を次々失う。ふとした気の緩みが発端で、とんでもない悲劇の始まりはこんな事だと思わされる。それが彼等の輝いていた大学生活からの卒業だった。

何年ぶりかでフィデルマに出会った。ドーリィとしての自信と誇りに満ち、王妹としての自負もあるフィデルマ。今回も鮮やかに事件を解決するが、他ならぬエイダルフの命がかかっているとあって、流石の彼女にも焦りが。ちょっと思いがけない犯人だった。如何にも怪しげな修道院長や司祭が犯人では、現代的な事件になってしまい、時代と場面設定にそぐわないのだろう。フィデルマとエイダルフも自分達の気持をやっと認めるに至り、今後の展開も興味深い。