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2023年6月の読書メーターまとめ

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2023年6月に読んだ本
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2023年6月のお気に入られ登録
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  • 耳クソ

2023年6月にナイスが最も多かった感想・レビュー

roughfractus02
人類の文明は他の星のロボットが必要な一つの部品を送るために作られ、主人公に予言を授け、陰謀を巡らす人物も彼らに操られている。文明の進歩と自由を目的とした人間中心のスペースオペラが物語の線状に沿って進もうとすると、そんな非目的的世界が登場人物達を待ち受ける。次々と襲う試練は、目的を夢見る登場人物達に神の試練に耐える聖書の逸話を思い起こさせるが、報われない状況では、遥かに広がる宇宙の彼方より身近にいる者との安らぎを選ぶしかない。自らを賢いと思い込むほど人は愚かだ。作者はそんな愚かさを突き放しつつ愛でるようだ。
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2023年6月にナイスが最も多かったつぶやき

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先月はマインドフルネスと禅語録からジョーゼフ・キャンベルの神話学経由で劉慈欣とケン・リュウの中国系SFへ、、物語を壊す瞑想と禅から、物語構造の科学技術的実践例へという感じ。noteに今後本は買わないと宣言記事出したのでこれから読メも蔵書+図書館本で 2023年5月の読書メーター 読んだ本の数:31冊 読んだページ数:12824ページ ナイス数:413ナイス ★先月に読んだ本一覧はこちら→ https://bookmeter.com/users/743402/summary/monthly/2023/5

先月はマインドフルネスと禅語録からジョーゼフ・キャンベルの神話学経由で劉慈欣とケン・リュウの中国系SFへ、、物語を壊す瞑想と禅から、物語構造の科学技術的実践例へという感じ。noteに今後本は買わないと宣言記事出したのでこれから読メも蔵書+図書館本で
2023年5月の読書メーター 読んだ本の数:31冊 読んだページ数:12824ページ ナイス数:413ナイス  ★先月に読んだ本一覧はこちら→ https://bookmeter.com/users/743402/summary/monthly/2023/5
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2023年6月の感想・レビュー一覧
30

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想像力が暴走すると現実が見えず、モラルも崩壊する。愛への執着は家族や相手を思う男女を暴走させ、科学への執着は人間同士のモラルを歪める。作者はそんな歪みや暴走を最後の一行で調整し、それら不安定さが人間自身の細部や感情の機微を物語化することを読者に示す。「女」(承前)「科学」「ロマンス」(前半)の3テーマからなる本書では、それら機微を物語が包み込み、決してセンセーショナルでないような手順で、登場人物たちの細やかな感情を醸し出すように思える。中でも科学の暴走に関する教訓的寓話は、読者の理性より感情に触れてくる。
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本書は、作者が遺した98の短編を8つのテーマで編集したシリーズ(全4巻)の1巻目であり、作者の意識の深層にあって創作のモチーフとなる「戦争」編全てと「女」編(2巻目に続く前半)を収録する。第二次対戦中ドレスデンで味方の爆撃に遭った作者の体験が敵味方に区別された意識の上での戦争ではなく無意識裏にある全面的な破壊の様相を前景化し、寄るべない感情が反転する結末へ至る短い逸話の端々に両者の葛藤が見え隠れする。戦争編の後に位置する女のテーマは、愛を通すとむき出しの現実に男を直面させる女性が描かれているように見える。
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作者の20代の未発表短編を集めた本書では、世間の多様な話題に合わせた短編を洗練させていく作者の軌跡が読み取れる。が、B・ショーの主題やO・ヘンリーの短編形式を50年代アメリカでバージョン化したような16の短編には、一貫して悪人が登場せず、バッドにもハッピーにもならない抑制された結末によって、物語に対する世間の欲望をシニカルに照らし返す周到さも見える。対立競争と支配服従を作る資本主義的な人間関係と、真偽を探り理想と現実の間を彷徨う個人の心理を結びつけるのはフィクションの力だ、という作者の声が聞こえるようだ。
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個人の心にも人間同士にも対話があり、自分が不在でも社会は自分を話題にする。内外を対話に満たされた世界を描く作者は、対話自体が想像以上に複雑で不確定であることを14の短編で描き分ける。心の声を聞く発明品は一つの口から発せられる言葉からイメージする心の声と違い、疑心暗鬼し続ける複雑さを露わにし、小さな宇宙人の話をする主人公は自分の心と対話していたのでは?という疑問を読者に投げかける。社会の多種多様さを各短編の最後のオチで仄めかす作者は、世界の複雑さへの対処の失敗例や成功例を示す。世の中とは「そういうものだ」。
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合理主義的な世界は、人の善意を現実を華美にする虚飾のように扱う。作者の心温まる物語群は、虚飾となった善意が現実から離れて虚構の側に入り込み、目的意志に憑かれた人間関係に齟齬を来す様をシニカルにユーモアで包むように描く。一方、本書収録の23編の中の2編にあたるSFは、科学技術の進歩によって効率化する世界が目指す目的の向こうの世界が無辺の闇かもしれないことを、ニヒルにブラックユーモアを交えて読者に仄めかす。言葉と意識で覆われたそんな世界を笑えるなら、身体を含む無意識の領域が読者にもまだ残されているからだろう。
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変化は時間直線上で緩やかに起こり、物語を着々と進める動力だが、変異は時間直線自体を変形し、物語の速度や方向を変える。本書には、前者に属するしみじみした作品の中に、ドタバタや荒唐無稽な結末に暴走する後者の作品が混入されている。両者の主人公は共に生真面目だが、前者ではその性格の影響が他の人間までに制限されているのに対し、後者では世界の崩壊を引き起こす。生真面目さは作者には機械と同義であり、後者では、人間=機械と世界を結ぶシステムが真の主人公となる。国家や企業はシステムであり、戦争はシステムの崩壊の比喩である。
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長い間信じられてきた悲劇やロマンスの定型的物語を崩すのは、長い間定型を崩す役割を果たしてきた喜劇だろう。作者初の短編集である本書では、定型を崩し、物語を逸脱させ、寓意によって読者をハッとさせる試みが12編にぎっしり詰まっている。ハートフルな物語は逸脱を始め、役に入り込む俳優との恋愛は女性の決意によって物語の方向を変える。そして、チェスのコマとなった人間、有り余るほどの財産、人口過剰で自殺を促す未来社会は、そのプロットの極端さによって、短期的欲望を煽る資本主義社会に生きる読者が向かう未来を寓意的に風刺する。
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2001年から1991年に時間が戻り、全世界の人々はこの期間同じ人生を正確に生き直す。従来のタイムトラベルものから自由意志を取り去った本書は、63章の断片から成り、他の作品群にも登場するSF作家トラウトと作者自身の作品断片が混交する回想である(回想が、過去の一部の記憶断片がそのつど想起された諸断片の寄せ集めという意味ならば)。が、10年を辿り直すと人々に自由意志が戻るかに見える物語世界でも自由に縛られ、フィクション形式に縛られている。著者はこの最後の長編で、想像力の自由という「巨大脳」の束縛から逃走する。
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呪文の言葉(ホーカス・ポーカス)を表題にすると、フィクションはその力を失うようだ。アメリカ経済が破綻する近未来、日本が買収した刑務所での脱獄事件に始まる物語は、呪文が解けたアメリカを俎上にのせ、警句的なエッセイ風文体で物語が展開する。編者K.Vのはしがき、労働運動者デブスの墓碑銘に始まる本書は、ヴェトナム戦争で兵士の鼓舞役だった主人公の言葉の呪力が、刑務所への就職で歴史に埋もれ、母国に対する怒りや悲哀を込めた辛辣な警句に取って代わられる。が、マツモトが登場する最後にフィクションは呪文の力を取り戻すようだ。
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作者の作品の回想録はいつも物語の流れを断片化するエピソードに満ちている。それら断片は過酷さによって回想者に記憶され、人生が運命ではなく偶然と気まぐれでできていることを読者に示す。画家であり退役軍人である本書の主人公は、自分の人生を日記のように書き記す。が、主人公が語り手である回想体の特徴にもかかわらず、本書は読者が回想される過去だけでなく回想者自身の現在も気になるという特徴を持つ。主人公が納屋の中に隠している「なんじゃもんじゃ」とは何か? 主人公はなぜ回想するのか?という問いが回想の最中で生まれるからだ。
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前作『デッドアイ・ディック』では喜劇的物語世界を残酷さを滲ませる病的語り手を通して展開したが、本書は進化論の残酷な淘汰によって人間が変異・適応した100万年後の世界を、幽霊と呼ばれる語り手がユーモラスに語る。物語は時間直線に沿って進むわけではなく、散在するエピソードも先取りされ(これから生まれる者の話が始まり、これから死ぬものは星印が名前に付される)、人類滅亡は物語の末尾ではなく始まりに位置する。そして語り手は、行為を軽んじ何も変えない意見が満ち溢れて世界が滅んだ100万年前の「巨大脳」の時代を回想する。
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E・M・フォスターは「王が死に、そして王妃が死んだ」という記述はストーリー(物語の流れ)であるとし、王妃の死に「悲しみから」と加えると物語の方向(プロット)を示すと言った。本書は「のぞき穴が開き、そして閉じる」という表現で物語の流れを「人生」と呼ぶ。子供時代に人を殺し、「デッドアイ・ディック」(必殺射撃人)とあだ名される語り手は、自らのトラウマを投射するプロット(のぞき穴)を設ける。語り手の「人生」が作る歪んだ穴から登場人物達のやらかし放題の「人生」を覗くと、読者は喜劇の中の笑いと残酷さを同時に凝視する。
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本書のプロローグにある“Love may fail, but courtesy will prevail.”を訳者が「愛は負けても親切は勝つ」と訳したのは皮肉のように思える。なぜなら勝/負のような二項対立で進む資本主義社会の20世紀米国史を娑婆/刑務所を往復する主人公の回顧録形式で風刺し、右/左の思想や貧/富が一方への愛と執着から生じることを本書が示しているからだ。村上春樹の「愛は消えても親切は残る」いう訳なら(『雨天炎天』)、対立軸が変わっても親切さを育む人々の関係がprevailする社会が垣間見える。
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3次元でも時空のスケールが変われば、重力が変わり、人の背丈も変わり、考えも変わる。一方社会は、物理的状態が安定するほど単純ではなく、もし安定しても長く持続する保証もない。スラップスティック(ドタバタ喜劇)は変化する世界に登場人物達を放り込み、対応の遅い人間社会を混沌化する。巨大な身長の男が混乱する米国最後の大統領として手記を認める時、食糧危機に面した中国は消費を抑えるために人間を小人化しようとする。ピラミッド等の巨大建造物は重力の弱い時代に巨石のおはじき遊びでできたのだ。喜劇が描く世界とはそういうものだ。
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シリアルの商品名を表題とした本書は、名前だけが煌びやかなガラクタ商品の寄せ集めでできたアメリカ資本主義社会を、人類学的視点をイラストで示しつつ風刺的に描く。内容と名前、「その他もろもろ」とそれを操る者を結ぶ一方的なトップダウン関係は、ポルノ雑誌で作品タイトルを改変され、資産家によってアートフェスに出る羽目になるSF作家、SFを読んで発狂する男、さらに作者自身とSF作家のメタレベルの関係に及ぶ。そんな喜劇の中、作者は物語の秩序に操られた登場人物達を混沌へと解放し、自身の脳からガラクタどもを一掃しようとする。
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猥褻表現で禁書騒動になった本書だが、その本質には自由意志への強い疑念がある。飛行機事故で脳が損傷した男は、時間を直線として認識するが、未来を可能性と捉え、自らの意志の自由で未来を選ぶという近代的個人をベースとした時間概念と異なる時間を生きる。時間は直線的だが瞬間ごとに決定されており、彼は未来も自分の死もあらかじめ知っている。平安な気持ちで生きる主人公は死を恐れず、戦後も冷戦の続く世界で注目され、運命通り講演中に死ぬ。戦争を自由意志の国家的行使と捉えたような本書は、その風刺として決定論的世界に平安を見る。
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戦争での精神的ダメージがなければ、本書の博愛的主人公は資本主義が戦後アメリカ社会で、神の如き人物として描かれたかもしれない。が、自らの財産を分け与える彼の意志と行動は、人々から精神の病かアル中のせいだと言われる。物語は愛を利己と利他の振幅の中に置き、個々の利益を肯定する資本主義の中で、主人公の行いを不幸な病として描く一方、彼の病が資本主義によって大規模化した戦争から生じたことも示唆し続ける(敵と間違えて市民を撃った)。愚者としての主人公は、資本主義が敵を作り敵を倒す物語を紡ぎ出し続ける様を剥き出しにする。
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複雑な関係を言葉で表すと比喩になる。あやとりの交差する糸の模様を「猫のゆりかご」のようだと呼ぶとき、猫のゆりかごは喩える人の脳内にある。が、喩えは連想の力を得て物語を紡ぎ、聖書で鯨に呑み込まれたヨナの名を名乗る主人公が『白鯨』の冒頭文をもじる冒頭から、最終兵器アイスナインが使用されて冷戦(Cold War)が人類滅亡の形で終わるという皮肉な結末に至る。既成の宗教、国家、企業の風刺する寓意的なボコノン教の書がそんな終末の後に完成すると、新たな始まりも予感させる。が、比喩から連想される物語はやはり比喩なのだ。
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読者は物語世界にどう向き合うべきか?第二次大戦前ドイツに渡り結婚した主人公はワータネンなる男に米国特務機関員を委託される。妻の死の悲しみの中モルヒネ常用者として米国で暮らす戦後に、妻の妹に会わせる隣人をワータネンは2人ともソ連のスパイだという。妻の妹は自殺し主人公も投獄される。そんな物語の中で、主人公の情報源であるワータネンの存在を米国政府が否定し、ワータネンは自分は実在すると手紙で主張する。この手紙は本人からなのか?この男は主人公の妄想か?という疑念が読者に生じる。そう、この物語全てが読者の妄想なのだ。
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人類の文明は他の星のロボットが必要な一つの部品を送るために作られ、主人公に予言を授け、陰謀を巡らす人物も彼らに操られている。文明の進歩と自由を目的とした人間中心のスペースオペラが物語の線状に沿って進もうとすると、そんな非目的的世界が登場人物達を待ち受ける。次々と襲う試練は、目的を夢見る登場人物達に神の試練に耐える聖書の逸話を思い起こさせるが、報われない状況では、遥かに広がる宇宙の彼方より身近にいる者との安らぎを選ぶしかない。自らを賢いと思い込むほど人は愚かだ。作者はそんな愚かさを突き放しつつ愛でるようだ。
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なぜ喜劇が起こるのか?と作者に問えば、複雑で矛盾に満ちた世界を合理的と思い込む人間がしっぺ返しを喰らうからだ、と答えるだろう。工学系の家系に育ち、大学の生化学専攻をドロップアウトし、人類学を学んでGEに職を得た作者は、合理化を目指して機械化する巨大企業のような世界を先住民族側から描くように、合理性に酔う人間を複雑な世界の中に放り込む。デビュー長編の本書では、自動演奏ピアノのように機械化した近未来社会で、格差の上位層に属するリートの主人公が世界の複雑さに翻弄され、反機械革命の「幽霊シャツ党」に巻き込まれる。
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楚漢戦争という史実を多角的視点から描き直す際に重要なのは、本巻では政治や戦争に直接間接に関わる女性たちのようだ。古代を舞台にしつつ自立心の強い彼女らの出自や政争を通しての成長は、主人公クニとガルの史実(項羽と劉邦)解釈とは異なる方向に向ける。男性優位の政争に彼女らが加わると、戦いのモチーフは伝統への反逆という意味を帯び、戦いは革命的な意味合いをさらに増していく。その中で、意気投合していた2人の主人公が対立をはじめると、史実で描かれた同じ出来事が過去の事実を超えて現在の状況の困難も描き出すように見えてくる。
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項羽と劉邦の英雄物語的知識で本書を読むと『史記』全体の構造や多数の人物の視点で世界全体を把握する群像劇的記述自体が欠落する。不透明な世界全体を見渡そうとして現れる群像劇は、統一的な国家の元で編まれた歴史に抗する形で出てくる。本書は司馬遷同様歴史を群像化するモチーフを散りばめ、『ゲド戦記』架空の島のプロットや『アエネーシス』の遍歴の要素も織り込む。7国が統一された架空の国が舞台のこの長編シルクパンク冒頭の本巻は、ブルース・スターリングのスチームパンクを脇に置くと、技術と政治の関わりに現代の状況を垣間見せる。
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映画公開に合わせて既出の邦訳短編を再編集した本書には、作者の抒情的な作品が選ばれているようだ。これら作品では時空間的な距離や技術による人間能力の個人間の疎隔がプロットとして与えられている。それらを通読すると作者の失われた過去への想いが垣間見える。中国系アメリカ人として現代アメリカ社会に生きる際の疎隔感と幼い時に離れた中国への作者の思いが作品を抒情で包む。が、技術革新による社会の身体能力の変容を描くSFでは、抒情はノスタルジーに留まらず、時空や疎隔を超えた繋がりを構想するモチーフにもなるようだ。(9編収録)
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偏見修正ソフトを通して小説が読めると議論が巻き起こり(「ブックセイヴァ」)、全てを見渡せる永久機関の渇望も生じる(「マックスウェルの悪魔」)。技術の両極端な傾向を描く作者は、問題の本質を歴史に見たようだ。真理の権力(国家)に則って事実を一元化する歴史に対し、作者は、多数の証言や解釈を提示する群像劇の多元的な手法で事実を不透明にする様々な真理のフィルタを読者に示す(「歴史を終わらせた男-ドキュメンタリー」)。女性達が主人公の作品にも壮大な群像劇『三国志』がベースにある(『灰色の兎、真紅の牝馬、漆黒の豹』)。
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意識を理性に制限するのは三次元に身体が存在するからだ。意識は深層に直観と共感を有し、表層では言語と理性が優位となるが、三次元では直観と共感は身体の無意識に追いやられる。作者は他の作品で情報技術は三次元空間では人々の心を分断するが、世代を超える四次元以上では人々を繋ぐことを示した。本書では、直観と共感をアップロード可能な世界を設定し、親世代と共感(絵文字)で繋がる世代や身体のない世代への希望を語り(「神々三部作」)、VRで繋がる三次元ではプロパガンダ化する面(「ビサンチン・エンパシー」)の二面性が描かれる。
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寓話は物語世界を読者の現実に向けて「アリになりたいか、キリギリスか」と読者の判断を問う。一方SFは、読者の現実(南北問題、グローバル化、温暖化、米中対立)を未来や他の時空に移し、数学的フィルタ(カントールの定理)を通して変形し、読者の現実を作る通念の脆露さと儚さを示す。忘却が自己同一性を揺さぶり、神の命令が笑いとなり、文明側の野蛮が露呈し、不死からテラフォーミングに至り、情報を伝える意味が問われ、言葉より身振りで交流する物語を巡ると、眼前の本も他者が読むと文字列が変わるような進化を遂げる可能性に思い至る。
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空間的距離をなくす技術が生きた世界に接続されると、心の距離があらわになる。ヒグマの力に技術で対抗する力を得る男(「烏蘇里羆」)、ロボットで母を遠距離介護する娘(「存在」)、取り戻せない娘との距離を似姿(像)を作って慰める父を見てさらに嫌悪する娘(「シミュラクラ」)らのコミュニケーションは、技術以前に人間の記憶が生きた世界をデジタルに切り取って生と距離を作る原型であることを、はかなさや悲しみと共に読者に伝える。一方、記憶が時間的距離を越えて心を繋ぐことを、揚州大虐殺を扱う2作やアメリカに現れた関羽が伝える。
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既存のテーマ、作者、作風を連想させる作品群を収めた本書は、読者に「人は自分のみたいものしか見ない」(「重荷は常に汝ととともに」)というどこかで聞いた言葉を突きつける。本書では色彩豊かなラッピングをされたコピーとシミュレーションでできたデジタル世界が、身体の属する生きた世界と隣り合う。生きた世界では、母と娘の記憶と思い出に関する埋められない溝(「母の記憶に」)や戦争加害者だった父の心(「ループのなかで」)のように、一概に愛や抒情と呼べない無辺で複雑な関係の網の目がある(「上級者のための比較認知科学読本」)。
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人は危機を越えようと永遠を求め、不死の科学を生み出し(「円弧」「波」)、その発展は技術から人間自身を捉える思考を生む(「1ビットのエラー」)。技術は心身の限界を超え、機械と一体化した世界や身体を作る(「どこかまったく別の場所でトナカイの大群が」「良い狩りを」)。死を前提とした永遠のイメージは直線や円環だったが、不死を前提とすると小さな円環が繋がる流転のイメージとなる。不死の生は死を選べるが危機は選べず(「もののあわれ」「潮汐」)、それら小さな円環は本が繋げて行くのだろう(「選抜宇宙種族の本づくり習性」)。
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ユーザーデータ

読書データ

プロフィール

登録日
2017/02/06(2799日経過)
記録初日
2017/02/06(2799日経過)
読んだ本
3432冊(1日平均1.23冊)
読んだページ
1316452ページ(1日平均470ページ)
感想・レビュー
3432件(投稿率100.0%)
本棚
13棚
自己紹介

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