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2024年1月の読書メーターまとめ

roughfractus02
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432ナイス

2024年1月に読んだ本
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2024年1月のお気に入られ登録
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  • arctix

2024年1月にナイスが最も多かった感想・レビュー

roughfractus02
現実のオルタナティブとしてファンタジーを置く作者は、対立と戦いと勝利の英雄物語化するファンタジーを拒否する。この領域が現実の選択肢たりえるのは現実を変える力をファンタジー自身に与えるためだ。争いが頻発し、英雄物語との境が曖昧になった現実が覆う現代では、子供が本を開き、選択肢としての新たな世界の入口に立つのは英雄ではなく子猫になるのだろう。確かに、翼を持つ4匹の子猫たちは市街地の再開発で生活環境を悪化させる人間に戦いを挑むことはない。むしろ作者は旅立つ子猫たちに、古来の物語同様森という新たな世界を用意する。
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2024年1月にナイスが最も多かったつぶやき

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遅ればせながら、あけましておめでとうございます。元旦の激震、次の日その次の日の火災と、13年前被災した東北の実家に帰省して身の丈の世界と大地に思いを馳せました。去年はSF三昧でしたが今年は人類学考古学民俗学読書にシフトしたく(写真は初詣の深大寺にいる大地の精たち) 2023年の読書メーター 読んだ本の数:365冊 読んだページ数:123957ページ ナイス数:4270ナイス ★去年に読んだ本一覧はこちら→ https://bookmeter.com/users/743402/summary/yearly

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。元旦の激震、次の日その次の日の火災と、13年前被災した東北の実家に帰省して身の丈の世界と大地に思いを馳せました。去年はSF三昧でしたが今年は人類学考古学民俗学読書にシフトしたく(写真は初詣の深大寺にいる大地の精たち) 2023年の読書メーター 読んだ本の数:365冊 読んだページ数:123957ページ ナイス数:4270ナイス  ★去年に読んだ本一覧はこちら→ https://bookmeter.com/users/743402/summary/yearly
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2024年1月の感想・レビュー一覧
32

roughfractus02
ファンタジーは人類最古の文学形式だと著者が言う時、トーテミズム的なさまよいの物語が念頭にあるようだ。また、ファンタジーは子供の物語でも戦いの物語でもないとされる時、自己と対象、善と悪の対立を設けない関係と結び目からなる物語がモデルにある。それは関係しか語らない夢や動物のコミュニケーション構造に近い。政治や心理や神学の寓意を物語に読まないように警告するのも、多様な関係を固定させないためだろう。敵と対立を前提とした物語から離れたファンタジーは、狩猟採集社会以降発達を止めた脳の構造にフィットするのかもしれない。
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作品が書けなくなると、著者は登場人物の声を聞き、風景から言葉が掴めるようになるまで「待つ」のだという。人間が自らの想像力で作品を創造するのではなく、自然が形を与えてくれるまで待つという姿勢は、幼い頃人類学者の父母に聞かされた異文化との遭遇や実際に「インディアンのおじさん」との出会い以来続いているようだ。この姿勢が自然を対象と捉えて搾取し、目的を作って意識を祭り上げる男性中心の近代社会や、想像力を人間の脳=心に還元するリアリズム小説への批判となる。本書を読み終えると、シャーマンの声を聞いたような余韻が残る。
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物語をどう作るかではなく世界を複雑で多次元で深みがある時空としてどう感じるかだ。読み進めながらそんな作者の声が聞こえてくる。小説創作がテーマの本書だが、キャラクター設定から入る物語論でも修辞分類から入る文体論でもなく、宇宙をカオスと捉え世界を海として体感するための指南書に思える。船の構造(文法)を学ぶことは必要だ。海図(プロット)は不要な時もあるが、動力(文のリズムや語り口のトーン)なしに船は物語の海へは漕ぎ出せない。そして、品詞や人称、5つの視点や複雑さによる時制の区別は、この海を渡る際の羅針盤となる。
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冒頭からクローン、ジェンダー、家族計画のテーマで、性差が生物的/社会的区別の混同から差別となる点をフェミニズム的論調で突く作者は、さらに社会的差別を法と習慣の両面から捉える。が、言語と意識でできた法は無意識が作る習慣や行為を変えられない。ここから本書は、焚き火に集まる人々から宇宙を器と見なして「ろくろ」を回す創造者を夢想した人々を辿り、無意識の古層に踏み込む。世界を変えるには自分を失うだろう「端っこ」に向かい、世界を創造し復活させた踊りを踊るのだと本書はいう。詩や物語のリズムやトーンを生むのはこの踊りだ。
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「王様は裸だ」と言う子供は真実と事実を分ける力がある。誰もが確認できる事実(fact)は虚構(fiction)と混同されやすいのだ。両者はfacere(作る)の派生形なのだから(「裸の王様」では大人たちが事実と虚構を混同していた)。一方真実は個々の内にあり確認可能な事実とは違う。それゆえ真実を見つけ出す役割は芸術に託され、芸術家は自らの想像力と文体でその時空を作り続ける、と著者はいう。著者の作品が夢や詩を多用するように見えるのは、白昼の下に晒される事実より夜に紛れる真実へ物語の言葉たちが向かうからだろう。
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クモを嫌うのは人間側の都合かもしれない。よく見ると、巣の形は幾何学的で美しく、ハエを捕まえて食べることも生き物として当前の行為に見える。本書は、城の片隅に棲む小さなクモが、宝石の美しさに魅せられて世の中で一番美しい蜘蛛の巣を作ろうとする物語である。作者は人類学的な眼差しで自然と人間の関係を物語る。すると、作ることはさまざまな関係を編むことであり、労働は自然の美を目指し、クモとヒトは生き物として同じ自然の中に生きることになるようだ。この世界が敵対と勝利の物語に彩られないのは、差別という観念がないからだろう。
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fictionとfactの語源facere(〜する:羅)から始める作者の個性を汲むような邦訳タイトルだ。本書には、自選短編集The Unreal and The Realの39編から邦訳済み作品を除く未訳の11編が収録される。確かに、選ばれた作品には虚構と事実が融合し、意識側で物語を読むことから無意識に物語ることへシフトさせる実験的な物語がある。オレゴン州にある架空の街の話や同じに見える8つの掌編が各々別の世界を指す物語では、一つの解釈を求める読者の閉じた思考を、窓外を歩く身体の知性へと開くかのようだ。
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ハイニッシュ・ユニバース物には差別からの自由というテーマがある。本書収録の8編はこの宇宙を背景に、性徴期ごとに性別が変わる社会、男女比が極端に違う社会、4人で結婚する社会を想定した物語的実験で、性差は生物的なものでなく、社会的であることが示される。が、社会的とはいえ、それを法によって解決することはできない。習慣が引き起こす心理的差別を巡る奴隷制の物語が導き出すのは、世界を滅ぼし新たに世界を作るしか方法はないという仮説だ。一方作者は、人には世界の終末を避けて自ら自由を手放す傾向があることも物語によって示す。
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空港で飛行機(plane)の遅延に苛立つ女性は、直線的時間と平面(plane)的空間でできた自らの思考が危機に陥っている。作者は「プレーンとプレーンの間」にあるこの女性に、並行世界を旅する能力を与え、ガリヴァーさながらの旅をさせる。16の世界の旅が記された本書は、似ているが価値の転倒した世界を主人公に見せる。個人(夢の共有)、社会(多数の王族と少数の平民)、人間(鳥のような渡りをする人間)、生(厭わしい不死)等の転倒を通すと、読者の平面化した思考習慣にも、凸凹だった子供の時空が懐かしい謎として見えてくる。
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惑星ハインに始まる人類史SFは、同じ起源を持つエクーメン惑星連合やテラ(地球)もその中に含む。が、主な舞台は或る太陽系の2つの惑星だ。本書は両惑星間にある主人と奴隷、男と女の格差をなくそうとする努力と困難を4つの短編で描く。この世界の背景を説明せずに進む語りは、差別を人物の心理で伝え、もし奴隷から解放され男女の格差が解消する法的自由(liberty)を得ても消えない格差に読者を対峙させる。心的自由(freedom)の観点を通した4編は、格差を「赦し」(forgiveness)へ向ける試行錯誤の過程となる。
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作者のSFが人類学的なのは、異文化接触が変容を生むモチーフだからか?本書の各短編の主人公も何かに出会い、変容する。変容は作品に偶然を導き入れ、主人公に様々な未来を用意する。瞬間移動を可能にするチャーテン理論研究に関する本書後半の3編は、そんな変容を不要にしたい人間の思いを際立たせるかに思える。作者は相対性理論を破る「アンシブル」なる情報の瞬間移動が実現した物語世界を作ったが、物質の瞬間移動に関するチャーテン理論は未完のままにした。が、この理論が未完ゆえに主人公は葛藤し、自ら心の深みへ向かうのかもしれない。
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2024/01/22 02:48

本書のタイトル『内海の漁師』は「浦島太郎」を指し、亜光速飛行で移動する「ヒデオ」なる主人公(チャーテン理論の研究者)が故郷に帰ると自分が若返り、妹が年上になるという「ウラシマ効果」のことも仄めかしている。ちなみに、作者が読んだ「浦島太郎」説話は、我々が知る明治期以後に改作された物語ではなさそうだ。古代では助けられる亀は、亀に身をやつした異界の姫であり、竜宮城は常世であり、浦島と姫は夫婦になるという話だったと昔読んだ覚えがある。古代の説話の方が本書後半の短編のモチーフにフィットしているように思う。

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羅針図(Compass Rose)と題された本書は、天庭(Nadir)、北、東、天頂(Zenith)、西、南の6つの区切りに20の短編が配され(羅針図の円をイメージ?)、前作『風の十二方位』同様各作品が他の何かを指す比喩のようである。一方、個々の作品は他の作品世界に繋がる度合いは前作より低く、各自独立した世界が描かれている。他方、この羅針図は、アリの言語から植物の非言語に向かう冒頭の短編に始まり、男性の探検隊以前に女性探検隊が南極点に到達していたと語る最後の短編まで、一貫して読者の常識の外側を指している。
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短編は物語に沿って一つの世界を描くのだが、作者の短編は長編に繋がったり(『ゲド戦記』シリーズのアスーシー世界、『闇の左手』のハイニッシュ・サイクル)、短編同士が一つの心の世界を探る各試みだったりする(サイコミス:心の神話)。そしてそれらは無関係と思われる作品と違うことで、各々の属する世界のネットワークの結び目となっている。人類学者が接触した異民族の語る言葉を聞くように、作品の背景を補足し、他と繋げ分ける作業は読者に託される。作者初期の17編が収録された本書は、各々が東洋的な十二方位を指し示しているようだ。
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作者はラウィーニアに3つの層を与えたようだ。トロイア戦争時代の歴史上の人物、ヴェルギリウス『アイネーイス』の登場人物、この物語の語り手である。本書で主人公は未来から現れるヴェルギリウスの魂と対話し、未来を予言され、死すべき運命のアイネーアスと結ばれる運命を選ぶ。同時に、ウェルギリウスの作品であまり描かれない自身の物語を語る。典型的な英雄物語の周縁にいた女性が語り始めると、闘いと勝利の物語の背景を成す紀元前の雰囲気や記述されたラテン語から滲み出るラテン文化のざわめきが、3層の声と混ざり溶け合いそして消える。
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高度な文明が放射能汚染と地殻変動によって崩壊した2万年後の北カリフォルニア先住民に関する人類学調査の記録という設定と、物語的要素を極力排除した形式は、解説にあるような「ハイパーテクスト」なる概念を超えて、人類学者がファーストコンタクトする際に、帝国主義国家側が異文化を理解する行為自体の権力を問う。その中で「石が語る」という箇所にはまだ物語的要素があるのだが、旅をして動かなくなり石となったという女性の語る言葉は、新たな旅人に踏まれていく石の道にも魂があり、自然と人間が相互に関わり合う世界を読者に突きつける。
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まだ存在していない未来の先住民に関する人類学者のフィールドワークの成果、という壮大な想像力はトールキン『指輪物語』を思わせるケシュ語という架空の言語の創造、生活誌の資料断片、詩篇、解説、辞典がページ上に並んでいる。直線上の時間に整理される物語以前のこの配列を読む読者は、ネイティブ・アメリカン思わせる先住民が、未来にこのような文化を作り、生活することになるある出来事を徐々に知る。本書はその出来事を、ケシュ語の英訳が邦訳された文字列を物語世界に変換する行為と同等の支配の欲望の結果として、読者自身に提示する。
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森は時の流れを変えるがそこはまだ入口だ、と作者は考えているようだ。どちらも親からの束縛に悩む少年と少女が出会う森は、いつも夕暮れで時の流れが遅く、2人に安息と自由を与える。が、古今の物語は森を冒険の始まりの場所として扱ってきた。ゆったりした時間は何かが始まる前兆を示す。同じ作者の『どこからも彼方にある国』と設定は似ているが、ユングの意識と無意識の対話からなる自己を2人の対話に託した前作に比べ、本書はこの自己からなる迷宮世界を2人に彷徨わせる。読者もセラピストのように寓意に満ちた物語のメッセージに向き合う。
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嫌いな叔母がいなくなればいいと思って寝ると叔母が死ぬ夢を見、目覚めると叔母がいない現実になっている。荘子の「天鈞」を表題とし「胡蝶の夢」をSF化した本書は、現実になる夢を見て恐れる男、男の能力を使って現実を自分の欲望で満たす医者、その暴走を阻止する女弁護士の3者で展開する。意識は無意識に影響し、無意識は意識に映る現実を変える。が、そんな堂々巡りの世界に現れる異星人は男に、自分の寝床は「ドコデモ、ナイデス」(no where/now here)と呪文のように呟き、区切らなければ夢でも現実でもないと仄めかす。
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権力に庇護されていれば幸福は持続するが、その範囲外に出れば権力は暴力に姿を変える。権力は他に行使されるパワーだ。言葉も他に行使されれば権力となり暴力にもなりうる。そこは支配と隷従の関係が成り立つ世界だ。未来を予言する能力(ギフト)を与えられた主人公はそんな世界から逃亡し、帰属すべき場所を求めてはそのつど裏切られる。が、未来の予言を他の誰かに行使するのではなく自らの内に向ける時、物語る行為はその本質にある「文字」の深みに主人公と読者を誘うかのようだ。主人公が辿り着く詩と学問の都市は、読者の内にあるのだから。
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ファンタジーを現実に対する選択肢と捉える作者は、主人公に「文字」を覚えさせ、書物を読ませて記憶する能力を与え、さらに悲惨な出来事を体験させて自らの現実を自覚させ、そこから物語世界を動かしていく。姉と不自由のない生活の中で幸福を感じている主人公の黒人少年は、姉が殺されるところから恵まれていると思っていた自分が奴隷であり、奴隷制社会の現実の中にいることを自覚する。同時に、主人が与えてくれた教育が彼に「思い出す」能力を目覚めさせる。物語のテーマが幸福から自由へ展開する中で、主人公は未来の記憶を思い出し始める。
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文字を巡る物語の主人公は、文字を持たず他国の書物を焚書にする国の支配層の兵士に強姦された非支配層の女性から生まれた少女である。彼女は母から秘密の図書館を教えられ、道の長に文字を習い「語り人」の能力に目覚める。道の長は「読む人」であり、少女が語る文字を人々に伝える。シャーマンとなった少女の声に、吟遊詩人となって放浪し低地出身の母から教わった物語を朗唱する前作の主人公の声が重なる(原題は複数形のVoices)。本書に書く人がいないのは、「文字」の書き手が人間を超えた自然の無数の声(集合的無意識)だからだろう。
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ゲド戦記で意識が他に及ぼす制御・支配の力とされた魔法は、本書では戦いと支配を好み、高地に住む者たちに付与される。またゲドでの「真の名」は本書では低地の人たちが本を読み物語ることで伝える「文字」と呼ばれる。高地出身の父と低地出身の母を持つ主人公は目で操る「もどし」の魔法の力を制御できず、父に目隠しをされて盲目状態で生きている。が、魔法の微かな力から昔母が読んだ物語の欠落に気づいた主人公は目隠しをとって本を読み始める。本書の主題は主人公の成長だが、その冒険は意識の表層(高地)から深層(低地)へ降りる旅である。
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作者は末っ子の空飛び猫を人間社会に放り込む。そこでは末っ子猫を翼を持つ黒い猫(宗教的悪と人種的差別を含意)という外見を他と異なる個性のように扱い、見せ物にする。すると人間だけでなく猫もまた相手の真の名(本質)を言えなくなる(ゲド戦記参照)。末っ子猫が自由を探して辿り着いた人間社会は、部屋の閉じた窓の代わりにTVという窓を通して他者に晒す表層世界だった。その後作者は末っ子猫を母猫の元に逃がす。その際、深層にある自らの本質(内なる自然)を見出すことが他から自由となり自立となるというメッセージが託されるようだ。
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空飛び猫たちは内やる自然(本能)によって行動し、母猫から自立した。本書の主人公の家猫は、家から出て冒険を始めると恐怖に戦いて内なる自然(本能)が作動して高い所に駆け上がり、降りられなくなる。そんな家猫を空から助ける空飛び猫の1匹は、言葉を話せず、ひと枝ごとに降りる見本を自分で示しながら、家猫の中に眠る内なる自然を目覚めさせる。一方、家猫はネズミへの恐怖の記憶から失語症になった空飛び猫に語りかけ、恐怖を分かち合い、心を開く。本書では、物語ることが意識の深層にある内なる自然と向き合う冒険である点が示される。
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自然と人の境が曖昧なトーテミズムの物語は自然を彷徨い、自然を人が制御するシャーマニズムの物語は自然や敵と戦った。一方、猫が主人公の物語は、前二者が採用した<出発-冒険-帰還>の物語パターン自体を変える。森に着いた子猫たちは森に残る側と母猫に会いに街に戻る側に分かれ、街に向かう2匹は森で培った自然(帰巣本能)に従って旅をする。母猫に会い自然の見えない人間を疑問を抱きつつ、2匹は新たに加わった猫を連れて森へ戻る。それを見送る母は子供たちの帰還より自立に満足げだ。作者の物語は読者の感情でなく内なる自然に訴える。
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現実のオルタナティブとしてファンタジーを置く作者は、対立と戦いと勝利の英雄物語化するファンタジーを拒否する。この領域が現実の選択肢たりえるのは現実を変える力をファンタジー自身に与えるためだ。争いが頻発し、英雄物語との境が曖昧になった現実が覆う現代では、子供が本を開き、選択肢としての新たな世界の入口に立つのは英雄ではなく子猫になるのだろう。確かに、翼を持つ4匹の子猫たちは市街地の再開発で生活環境を悪化させる人間に戦いを挑むことはない。むしろ作者は旅立つ子猫たちに、古来の物語同様森という新たな世界を用意する。
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革命と戦争の時代に正義と自由を求め、投獄されて疫病に罹患した後、悪を知らず善を語っていたと自らの半生を回顧する兄に、生きること自体が害悪なのだと妹はいう。歴史(history)は、他者との関係を五感で意識し行動する自己を前提とする。一方、歴史は自身の中に含まれる物語(story)を、無意識裏に生を維持している肉体のように想像するしかない。歴史と物語を分離して考えるのはなぜか?架空の国を舞台とする本書の後半は、歴史と物語を並行させ、対話させるようにして、意識と無意識の間の対立関係を緩和させる試みにも見える。
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エミリー・ブロンテ『ゴンダル年代記』に想を得て架空の国を取り上げた『どこからも彼方にある国』を書いた作者は架空の国自身を舞台に様々な年代の逸話を『オルシニア国物語』で描いた。本書はさらに、フランス革命からナポレオン戦争を背景にスタンダールがロマン主義的熱狂を排して書いた『パルムの僧院』さながらの19世紀初頭にこの架空の国を置く。が、『パルムの僧院』と違うのは、田舎出の青年が革命に巻き込まれる過程を、女性の視点を取り入れて男性の歴史(his-story)の中に埋もれる物語(story)を前景化する点だろう。
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なぜfactとfictionの語源がラテン語fecere(作る)なのか?地球上にありながら実際にはない「オルシニア国」という本書の設定から、この問いに対する作者の回答を想像できそうだ。確かに、実体という意味ではこの国は想像の中にしか存在しない。が、事実に権力関係を見出す人類学者からすれば、権威が与える情報で作られた事実も個人の想像とそう変わらない。1150〜1962年までのオルシニア国に関する11の短編を収録した本書は、虚構はそんな事実に距離を置く作法である、と読者と登場人物を突き放す三人称の語りで示す。
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自己と他者、個人と社会が分かれる思春期は、意識が成長する身体を通し,他者への感情として現れる時期である。意識と無意識を含むユング的自己を登場人物達に自覚させる物語を数多く書いてきた作者は、本書で、思春期の少年少女の会話から、少年の意識の側から無意識を制御しようとして出てくる自己の解釈と、少女の意識と無意識を対話させようとする自己の解釈の違いを際立たせようとする。男性主人公が子供時代から夢見続けてきた「どこからも彼方にある国」の「平等主義」については、身分の平等と共同する平等の議論にその違いが顕著に表れる。
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対立から均衡へという作者の主張で動く各物語を鳥瞰すると、1巻目から最終巻の本巻へこの展開で進んできたことがわかる。魔法使いの国と神を信奉する国、生と死、龍と人間、男と女という対を対立から均衡に向かわせる本書は、龍人の少女テハヌーを鍵に動く。フェミニズム的主張が強いとされる本書だが、第1巻での影のテーマが変奏し、マイノリティからマジョリティが捉え直され、両者の関係が一方が他方を制御する関係から双方向的関係にシフトするのがわかる。生死の敷居の石が揺らぐと、黄泉の国は影でなくこの世界に実在することが明かされる。
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roughfractus02
最終巻に向かう本シリーズをゲト戦記シリーズの世界のプロットを巡る、魔法学院設立への前史、最終巻の6巻へ繋ぐ物語、あまり描かれなかった大賢人時代のゲドの物語、スピンオフ的人物の物語等の5つの物語が収録される。魔法使いが独身を通す男性のみになり、女性が魔法を使わなくなった理由等、他者を制御しようとする意識や言葉の象徴的意味を魔法に与えつつ意識的自我から無意識も含む自己の自覚へシフトしていく本シリーズのモチーフが散りばめられる。魔法の消滅を主人公に課すのは、現代でも技術の魔法に魅惑される読者への批判なのだろう。
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ユーザーデータ

読書データ

プロフィール

登録日
2017/02/06(2706日経過)
記録初日
2017/02/06(2706日経過)
読んだ本
3339冊(1日平均1.23冊)
読んだページ
1280713ページ(1日平均473ページ)
感想・レビュー
3339件(投稿率100.0%)
本棚
13棚
自己紹介

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