あらすじや前評判で見受けられたファンタジー要素にひるみ、地元書店でサイン本を見つけていなけれぱ出会っていなかった。人も構成も何もかもじわじわと込み上げてくるものがある。自分なんて、と卑屈になっている背中をとんと押してくれる。きれいな涙を流してすっきりした気持ちになった。田中達也さんのアートが登場したのもgood

一昔前のものと感じるOLの日常がそこにあった。大量のコピー取りや会議中の電話番。おやつタイム。呑気でほほえましいとさえ感じる。文章も柔らかく優しく淡々と読める。趣味を仕事に選ばずに普通に会社に入った謙虚さこそが、主人公の強い個性だと思った。今新しくこういう話は生まれない。ある時代の1ページとして取っておきたい一冊。

サイン本。かつてのシンプルかつ鋭い毒舌に比べて新鮮さは薄れるが、相も変わらぬ軽妙な文章は読みやすく面白い。簡単そうに見えてトリックは見破れたことはなく、難しく見せないテクニックを感じる。目下気になるのは、初版で名前の誤植が3カ所（気づいたのは）あったので、重版されているのか直っているのか答え合わせをしたい。

初読み。書店で見て購入したいと思っていたがなかなか出会えなかった一冊。一人語りが淡々としているところがよい。主人公の度肝を抜く行動もあるが、流されて巻き込まれた感もある。本人の一人称ではないので、感情が直接的にあふれ出てこない。フィルターがかかっているようで不穏な感じが絶えず息がつけない。その空気感に終始引き込まれた。上手く表現できないが一言にまとめると、とてもとても面白かった。誰にもどの作品にも似ていない。

弟が失踪した。不穏なスタート。そこからどこへ向かうのか予測不能。連作短編のように、取り巻く誰かの物語がそれぞれにある。見つけることがゴールなのだが見つけてハッピーエンドということでもない。一つの軸が意味を持たせてぐいぐい読ませる。この著者に求めている読後感とは違うかもしれないが考えさせられる。不思議な感覚になった。

「日本の最も美しい図書館」より穴場的な図書館も掲載されているように感じる。何より軽くて読みやすい。スタイリッシュもあれば、木のぬくもりをふんだんに感じ取られる建物もある。書架だけでも圧倒されるが、考え抜かれた内観にも目を奪われる。行けなさそうな遠方は写真で楽しんで、知らずに近くを素通りしていた場所はいつか訪れてみたい。

あらすじや前評判で見受けられたファンタジー要素にひるみ、地元書店でサイン本を見つけていなけれぱ出会っていなかった。人も構成も何もかもじわじわと込み上げてくるものがある。自分なんて、と卑屈になっている背中をとんと押してくれる。きれいな涙を流してすっきりした気持ちになった。田中達也さんのアートが登場したのもgood

エルキュール・ポアロ長編。あまり知名度や評価が高くない作品のようだが、逆に全く想像がつかない未知の世界を楽しんだ。そして簡単に犯人を推理できるわけでもつまらないというわけでもなかった。連続盗難事件の意味や、なぜ立て続けに殺人が行われなくてはならなかったのか、真相に近づき色んなピースが合う瞬間はやはり気持ちがいい。

一気読み。書店も出版社も映画も皆温かい世界。書店のおかげでできた本だからと理由をつけて（これが前例とならないように）特別に印税分を書店に還元される仕組みにしたと聞いているが、書店巡りだけではない贅沢な内容。著者の熱い思いがあふれすぎた注文を実現させた水鈴社を創立当時から応援していたが、ますます好きになった。書店へ足を運ぶ人が増えて本との出会いがありますように。

久しぶりに心を動かされた。か弱さと強さと優しさがあふれている。4人の間や個々に歴史があり、適度な距離のおかげで4人の絆は続いている。その関係は言語化できないが宝物のようにそっと大切にしていたいもののように見える。それを見守る大人たちや、ジュエリーのリフォーム、永遠についての問いもどれも素晴らしくて美しくて胸を打たれた。

長期休みにちょうどよいゆるい笑いを求めて。けっこう痛い思いをしていて、想像すると手放しでは笑えないのだが、痛みの経験すらもコミカルに変えているのはやっぱりすごい。プロ根性を感じる。兼業から専業作家になる過渡期のエピソードについては大変興味深く読んだ。全体的に面白くなかったという訳ではないが、前半の朝井家がピークだった。