たとえば「明ぼのやしら魚しろきこと一寸」には「夜が明けかけた浜辺の寒々とした薄明の中に、まだ一寸しかない小さな魚が、射し初めた曙光のかけらとも見分けがつかない可憐な「白」それ自体と化し、一瞬きらりと腹を光らせながら泳いでいったのだ」。
あるいは人口に膾炙した「閑さや岩にしみ入蝉の声」に「その普遍性が、蝉の声の存在にもかかわらずあえてそれを「閑」と断じるという逆説と、雨滴さえも浸透しにくい岩のうちに音が「しみ入」さまを体感するというめざましい物質的=身体的想像力と――その二つの賜物であることは言うまでもない」など。
あとがきを読んでいて驚いたのは、旧版の主人公が男だったということ。本作にはかなりしっかりと百合描写があるので、それが全部なかったとすると、だいぶ読み味が違っていただろう。
ミステリと古典文学を中心に読んでます。
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