形式:ライトノベル
出版社:講談社
形式:Kindle版
ブロックみたいな熱気球式100%って感じじゃなくて、大学生のダルいなかなか思い切れないのを表すための構成になってる。なんというか、東野圭吾みたいに100%設計してるわけではないけど、その構成を図面を引かずに感覚でやってて、一発で書き上げてるんじゃねーかという、なんというか天才臭を感じた。
でも、欲を言うなら、主人公がどう世界を変えたのかみたいなことがわかるエピローグが欲しかった。まぁ、そこら辺は読者の想像に任せる、ということなんだろうけど。
この後湯川くんの活躍でガソリンで飛ぶ飛行機が発達して、その先に『カブのイサキ』的な世界がやってくるのかもしれない。
科学史における重素の発見と利用。枝分かれした世界の、どこか似ており、しかし決定的に違う歴史。膨張し続ける地球と主人公が暮らす日本における日常。のんべだらりとした大学生活が軽やかに描かれていて大変読みやすい。この世界では飛行機は、基礎理論こそあれ「非効率。進み続けないと落ちるなんて危険すぎる。ドイツが研究してたトンデモ兵器だっけ?」というキワモノ扱い。そんな代物をなぜ飛ばそうとしたのか、ノリと勢いとコンプレックスと情熱の行き着く先は?
とはいえ、柞刈湯葉が得意とする不可思議な世界観はアチコチにひょっこり現れ面白かった。あと本作は会津若松ネタが多いような笑猪苗代湖が日本で2番目に大きい!って会津の人はやっぱり言うんですね。昔祖父とそれで言い合いをしたのを思い出しました。霞ヶ浦は淡水じゃない!とか言ってましたね。なんで小学生とケンカしてたんだ笑あとヨークベニマル懐かしいな。。。カブトムシ買ってもらってたわ。。。とかとか色々な思い出に浸りながら読みました。肩に力を入れず気楽にスラスラ読める楽しいSFでした。
追記:本作を読んでやる気が出てきた人は参考文献に挙げられている本も通読すると良いかもしれません。柞刈湯葉ぬかりないですねぇ笑
そもそも自転? 時間経過とか一日の時間配分に関する記述を見る限りは、膨張開始以前と一日の長さに差はなさそうだけど、角運動量保存則がこの世界でも成立してるなら、この地球は自転しておらずここは天動説宇宙なのでは? いや待て、"日本上空の静止軌道"って記述があるな。「日本上空」も相当に気になるがそれはさておき、自転しない星に静止軌道はあり得んか。となると……核と地殻の間に空洞があるんだからその回転周期が異なり得るわけで、それで膨張と角運動量保存の辻褄が合う? うう、ますます訳が分からないよ。
とまぁ、なんぼでも妄想しがいのあるお話を、バッサリすっきり単巻にまとめる芸風もまた良し。
あと、「横浜駅SF」刊行直後にオファーを出してきた編集者慧眼すぎ。その目利きがあってこそ本作が出たわけだが、その期待に十分以上に応えているところがまた素晴らしい。
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