形式:単行本
出版社:講談社
形式:Kindle版
やっぱりめちゃくちゃ面白い。上杉禅秀の乱〜永享の乱〜結城合戦を経て享徳の乱に至り、その後も長尾景春の乱、長享の乱と、戦いはまだまだ続く。関東情勢、まことに複雑怪奇なり。それにしても謂わば主人公たる足利成氏が肖像画すら残されてないのは、なんだか不憫。
上野の豪族・新田岩松氏を狂言回しとして指名するという趣向も本書の特徴で、確かに新田岩松氏が乱の始まりと終わりに関与していることは理解できるが「その動向を追うことが乱の経過の理解に繋がる」という意味での狂言回しの職責を果たせているのか、自分には確信が持てなかった。関東七名城の新田金山城を築き、私益確保のため関東の内乱を渡り歩いた一族という点では面白いが、とっちらかった内容という印象の一因にもなってしまっているようにも思える。ただでさえ登場人物が多い題材である以上、もっと出来事の描写に徹しても良かったのでは。
ともあれ北条・上杉・武田の三つ巴となる以前の東国戦国史をざっくり知るという目的は果たせたように思う。数的劣勢に立たされながらも事実上の勝者として生き残った足利成氏、家督争いから反乱を起こし上杉方の重要拠点・五十子陣を崩壊させた長尾景春、名前だけは以前から知っていた太田道灌(資長)といった魅力的な武将達の動向も知れた。伊勢盛時が主人公の『新九郎、奔る!』でもいずれ描かれるであろう時代背景、その予習ができたという点でも意義深い読書になったと思う。
応仁の乱以降の斯波氏がぱっとしないのは室町幕府内政治に特化した家だったということだろか。
事実だけを述べれば、16世紀における関東中央部は、越後長尾氏(上杉)・武田・北条という関東の外に成長した戦国大名による「三つ巴の争覇の草刈り場」となる。在地の戦国領主は対立・連携を繰り返した末に、この三者の勢力関係に応じた支配・系列化の対象となり、やがては併合されてしまうのである。彼らの独立した本城は、しだいに大名の支城と化していく。では、なぜ関東地域から自立した大名を生み出せなかったのか。まず、関東の雄というべき山内上杉氏が、享徳の乱において幕府の全面的支援によって大打撃を受けてしまった。
山内上杉氏はまたその後に扇谷上杉氏との抗争によって勢力を消耗した。その配下の長尾氏も景春以外は勢力を伸ばしながらも、主家の打倒は試みることがなかった。長尾景春も戦国大名への期待をもたれる存在であったが、多くの戦力領主の支持は得られなかった。扇谷上杉氏の家臣で頭角をあらわした太田道灌も主家の扇谷上杉定正に「上克上」で滅ぼされてしまった。結果論めくが、父を討たれた足利成氏の怨念が関東を未曾有の大乱に巻き込み、かつその強力な執念が周囲を圧倒して、戦国領主の戦国大名化を阻んだといえなくもないのである。
著者は1932年生まれで今年86歳、専門は関東の中世史。1980年生まれで今年38歳の若い呉座勇一氏のベストセラー『応仁の乱』に相当なライバル心を燃やしておいでの様子が、あとがきから窺える。「関西が応仁の乱で大変だった時、関東は平和だった」というビートたけしのTVでのコメントなども引き合いに出し、最近の教科書には載っているが、まだ一般的な歴史常識になっていない「享徳の乱」を普及させたいという熱意が十二分に伝わってくる本だった。57年間の南北朝の内乱に次ぐ日本史上第二の長期戦乱という見方も新鮮だった。
この本の中で主役は古河公方の足利成氏(しげうじ)だろうが、太田道灌、長尾景春といった脇役も魅力的。また、新田岩松氏が狂言回しとして重要な役目を担っている。「むすびに」の中で、享徳の乱から小田原北条氏滅までの約140年の「戦乱のなかの郷村住民」が自分たちの生命、財産を守るためにどのような行動をしてきたのかという項目も興味深かった。領主への「徳政」の要求、戦闘中の双方への年貢を半々に納める「半手」、侵攻してくる軍勢への「礼銭」で「制札」を取得し軍勢の乱暴狼藉を防止するなど、当時の庶民も武士同様命がけだった。
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