形式:単行本
出版社:平凡社
この物語は1960年生まれの4代目女性が語り手なのだが、その母である3代目女性の暗く奔放な生き様にも唖然。いわゆるフラワームーブメント世代なのだが、彼女の勝手気ままさは伊藤野枝もびっくりだと思う。著者コンデも3代目世代なのだが、自分の子の世代に物語を語らせている点も興味深い。
ノーベル文学賞候補を読む活動で初めてコンデを読んだが、予想以上に面白くて興奮している。しかしこのクラスになるとネット検索しても感想上げてる人少ないですね。この人ならウンチク語ってるに違いない、と覗いた松岡正剛さんの1000冊にもなかったのには驚愕した。日本人のいない世界の観光スポットに来た感覚ってこういうのかな。面白いのにもったいない。とにかくおすすめ。
そうしたルイ一族の「悪辣な世」を語り手と共に駆け抜けた読書が最後にたどり着くのは、過去においてなされたこもごもの悲喜劇が赦され、死者たちの合奏が自身の声として響くのを聴く、大いなる帰郷の感覚である。物語構造としてはおそらく『オデュッセイア』が意識されており、ほとんど叙事詩的なたたずまいだが、ディアスポラ、そして根を持つことという世界文学の二大テーマが見事に昇華された大傑作である。これが読まれないのは惜しい!
たぶんにマリーズ・コンデ自身の少女時代をモデルにしているようなので、いつまでも落ち着かない母親に対する愛憎入り混じった感情が細やかに描かれているのも印象的だが、なにをやっても満たされない孤独を抱えて放浪と放蕩を重ねる母親側の人生も苦しくなるような筆致で活写されている。男女問わず、お飾りとして登場する人がひとりもいない。これをポリフォニックと言わずしてなんとしよう。
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