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必読書150を読破しよう

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hitotoseno
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シュミット『政治神学』を読了しました。もっとも興味深く思ったのは、(本書において重要視されている)「例外状態」がなぜそれまでの法学で重要視されなかったかといえば、「例外状態」がむき出しになるようなことがなかったからだ、と述べている点です。19世紀のヨーロッパは(100年戦争や30年戦争などしょっちゅう戦争をやっていた頃に比べ)安定した秩序にありました。有名なところでは、第一次世界大戦は長期化することなく早期終結するだろうと誰もが思っていた、なんていう話もあります。現実に「例外状態」が出来しなければ誰もそれを考えやしない、だが、「例外状態」は法の内側に不可避的に存するものなのだ、とシュミットはおおよそそんな風に論旨を展開するわけですが、これは今日シュミットを単なるナチスの加担者としてでなく、れっきとした思想家として扱っている現代の目線からしてみると説得力を感じます。第二次世界大戦後の国際社会は冷戦という大きな対立軸があったとはいえ、全面戦争に発展することはなく比較的穏やかな秩序が保たれていました。が、冷戦の終結に伴ってあちこちで内戦やテロが起きるようになり、これまでの秩序に対する観念ではとらえきれない事態が出来するようになりました。それまで法哲学や政治学の分野で専門的に理解されているだけだったシュミットが、アガンベンやムフといった現代思想系の哲学者によって再発見されたのも冷戦終結後の話です。その点を考えれば、シュミットを読み直すなんていうことはできれば避けるべき事態なのかもしれません。